<書評>『みやこの祭祀』 全域調査 分かりやすく記録


社会
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『みやこの祭祀』宮古島市史編さん委員会著 宮古島市教育委員会

 宮古島は古来、神女祭祀のにぎわう地である。そのため学者の注目を集めてきた。しかし、急激な都市化と人々の意識の変化により、神女祭祀は近年、再編を繰り返している。かつて大勢の成員によって長時間行われた祭祀が、近年ではわずかな成員により短時間で行われる場合もある。

 宮古島の聖地は「ここは集落の聖地なので、関係者以外は立ち入らないで下さい」という立札で示されたり、鳥居が立っていたりする。そのほかは、公園の片隅、ささやかな森、海辺の小洞くつなど、本土の人々が見ても聖地とはわからない場合も多い。しかし、宮古的な神に祈る人々にとって、そこは大切な場所である。

 その聖地での祭祀、しかも宮古諸島全域の祭祀を悉皆(しっかい)調査した記録が本著である。751ページに及ぶ大著では、宮古島在住の著名な研究者たちと若い研究者たちが、集落の祭祀を丁寧に調査し、図版も多用しながら祭祀の状況を活写している。

 各集落の祭祀のページを開くと、まず集落の年間祭祀の概説がなされ、次に個々の祭祀の様子が調査カードに沿って記される。調査カードを用いることにより、祭祀の重要なポイントが抽出される。宮古島の祭祀に不案内な読者にも、祭祀の内容がよく伝わる、と評者は考える。

 宮古島の祭祀は、集落によっては秘儀性が強く、かつては祭祀が研究者に公開されなかった場合もある。しかし、本著では調査者が祭祀を行う成員の近くで記録を取り、動作も撮影している。それが可能なのは、調査者たちが成員たちと長年にわたって良好な関係を築いてきたからである。

 祭祀の成員が宮古的な神を敬うように、調査者たちも神を敬う。祭祀と聖域を大切に思うからこそ、このように充実した調査が可能だった、と評者は考える。そのような姿勢を、祭祀の研究者が常に持つべきことも、本著は教えてくれる。

 本著に関わったすべての皆様と、祭祀の弥栄(いやさか)を祈念し、書評とする。

(福寛美・法政大学沖縄文化研究所兼任所員・法政大学兼任講師)


 宮古島市史編さん委員会 下地和宏委員長(宮古郷土史研究会会長)の下、祭祀編小委員会は長濱幸男氏が委員長を務め、宮古島市内外の研究者、行政関係者多数が委員として発刊に携わった。