[日曜の風・浜矩子氏]夜は決して明けない アホダノミクス


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浜矩子 同志社大・大学院教授

 岸田文雄新首相が国会で所信表明演説を行った。そして瞬く間に解散・総選挙に突入した。岸田政権がどんな政権なのか。あまりにも判断材料がない。唯一の手掛かりが所信表明演説だ。そこで、その全文を熟読した。

 その結果、分かったことが三つある。第1に、筆者のネーミング・センスに狂いはなかった。安倍政権の経済政策をアホノミクスと命名し、菅政権のそれをスカノミクスと命名した筆者は、岸田氏の経済政策をアホダノミクスと呼ぶことに決めた。岸田氏が言っていることが、アホノミクス2にしか聞こえないからである。ある知人にこれを披露した。すると、「そこには『アホダノミ』も掛かっているのか」という素晴らしい問い掛けが返されて来た。これはいい。「困った時のアホ頼み」だ。メディア情報によれば、彼が総裁選に勝利できたのも、多分に「アホ頼み」が効いてのことのようである。

 第2に、アホダノミクス男はパクリ男だ。彼が前面に打ち出した「成長と分配の好循環」は、アホノミクスの大将が2016年1月の施政方針演説から使い始めた言い方だ。アホダノミクス男は、このフレーズをそのまま使っているに過ぎない。所信表明演説の中には、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略」を推進するというくだりがある。これらは、アホノミクス時代の「3本の矢」そのものだ。所信表明演説にはないが、「分厚い中間層」の復活という表現も、総裁選に向かう中では盛んに出てきた。これは、民主党時代の野田首相(当時)が11年9月の所信表明演説で使った言葉だ。

 第3に、「成長と分配の好循環」と言うが、アホダノミクス男が追求しているのは、実は「成長のための分配」だ。なぜなら、所信表明演説の中で、彼は「分配なくして次の成長なし」だと言っている。つまり、成長が眼目で、分配はその達成手段の位置付けになっている。弱者救済のための分配追求ではない。

 所信表明の最終盤で、アホダノミクス男は「明けない夜はありません」と言った。だが、アホ・スカ・アホダと続く政治体制の中では、夜は決して明けることがない。

(浜矩子、同志社大・大学院教授)