〈79〉小開胸心臓手術 早期の社会復帰 可能に


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 従来、心臓の手術は一般的に胸骨を切開して、胸を大きく広げて行ってきました。このアプローチ方法は心臓から大動脈に至るまで良好な視野が確保できるため、あらゆる手術に対応可能でスタンダードなアプローチであることは現在でも変わりません。

 しかし、現代はいかに患者さんのQOLを向上させるかを議論する時代に移っています。低侵襲治療は現代医療における最も重要なキーワードであり、心臓血管外科領域でも治療戦略上の大きな流れです。低侵襲心臓手術(MICS=Minimally Invasive Cardiac Surgery)は、小開胸(肋骨と肋骨の間を小切開)で行う手技であり、従来の胸骨正中切開に比べ組織損傷が少なく、術後の回復が早い利点を持ちます。しかし、従来の方法に比べ視野が狭く、難易度は高いといえます。

 MICSでは、胸骨を切らないため、出血が少なく、傷の感染のリスクもほとんどありません。また、一般的に胸骨正中切開の手術後は、自動車、自転車の運転や上半身を使う肉体労働や、テニスやゴルフなどのスポーツは、約2カ月間は控える必要があります。そのため多くの患者さんが2カ月間のうちに体力が低下し、結局、日常生活に戻るのに数カ月から半年かかることもあります。MICS手術ではそのような運動制限がないため、早期リハビリが可能となり、早期社会復帰が可能になります。

 傷が小さく美容面にも大変優れており、特に女性では、傷口が乳房に隠れ、ほとんど見えなくなるため、非常に満足度の高い手術です。もちろん、心臓手術であるため、通常の開心術と同じように脳梗塞や術後出血等の危険があることは変わりありません。弁膜症手術や冠動脈バイパス術等、同アプローチによる適応が拡大しています。

 標準手術が困難な高齢者に対する径カテーテル大動脈弁置換術(TAVI=Trans―catheter aortic valve implantation)を含め、心臓手術も低侵襲化が進歩しており、その恩恵をたくさんの患者さんが受けられるよう願っています。

 (山城聡、中部徳洲会病院 心臓血管外科)