外来魚交代劇の舞台裏 琉球大農学部博士研究員・鶴井香織<未来へいっぽにほ>


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 前回のコラムで紹介した通り、沖縄では外来魚の侵入により小型淡水魚の交代劇が続けざまに起こった。今回はその交代劇のうち、カダヤシがグッピーに駆逐された理由を解説する。

 1970年代以降、沖縄本島の全域でカダヤシの生息地がグッピーの生息地に置き換わった理由として「水質の悪化説」が広く信じられたが、これは証拠のない俗説であり、私たちが実施した本島全域の詳細な調査結果でもこの説が支持されなかった。一方、2種は同じ河川には共存しないか、共存したとしても一方の数が圧倒的に多いことが分かった。

 このような関係は「繁殖干渉」で説明できる。繁殖干渉とは、異種間で起こる誤った交尾や求愛によって次世代数が減少する現象で、近年外来種が在来種を駆逐する仕組みの一つとして注目されている。

 グッピーとカダヤシのメスは専門家でないと分からないほどそっくりだ。「魚自身も間違えることがあるのでは」と私たちは考えた。

 同じ水槽で2種を飼育する実験の結果、予測は的中した。グッピーのメスはカダヤシのオスがいても通常通り繁殖するが、カダヤシのメスはグッピーのオスがいると産んだ稚魚の数が激減したのだ(2種はいずれも交尾しメスが稚魚を産む「卵胎生」)。カダヤシのメスはグッピーに交尾され繁殖困難になったのだ。

 この研究で、グッピーの潜在的な侵略性が浮上した。繁殖干渉がどんな魚に向けられるか分からないので、安易にグッピーを放流してはいけない。一方、そんなグッピーも、オスだけを放流すれば難防除侵略種カダヤシを駆除する道具になる可能性も示された。オスだけを放流すれば定着の心配はない。実用化までにはまだ多くのハードルがあるが、まず第一歩として、野外水槽を用いた実証実験を進めているところだ。