伊江島の戦争描き、平和へ願い 漫画家しんざとけんしんさん新作


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漫画「死闘伊江島戦」を手に、思いを語るしんざとけんしんさん=那覇市内

 漫画家しんざとけんしん(新里堅進)さん(74)はこのほど、女性も含む多くの住民が戦闘員として動員されるなどして犠牲になり「沖縄戦の縮図」とも言われる伊江島の戦争を軸に、沖縄戦の実相を伝える漫画「死闘伊江島戦」(琉球新報社)を完成させた。

 前編「不沈空母にされたシマ」と後編「激闘下の女性たち」の全2巻で構成している。日米両軍による記録や住民の証言なども交え、多角的な視点で戦争の悲惨さを描いた力作だ。

 「死闘伊江島戦」の刊行は、しんざとさんが2015年に漫画「シュガーローフの戦い」(琉球新報社)を刊行した後、「次はやんばるの戦いを描こう」と取材したことがきっかけだった。伊江島住民の戦争体験をまとめた「伊江島の戦中・戦後体験記録」(伊江村教育委員会編)なども読み込み「調べていくうちに大変な戦いだと分かった」と感じ、伊江島の戦争を描くことを決めた。

 伊江島を取材で訪れ、漫画で描く現場にも足を運んだ。日本兵の手記や米軍の公式記録も読み込み、事実に即して悲惨な戦争体験を描いた。

 監修を務めた沖縄国際大学名誉教授の石原昌家さんは「しんざとさんは、証言と想像力により、暗闇の状況を克明に劇画化することによって、米軍が実写不可能だった沖縄戦の実像に迫っている」と評価する。

「死闘伊江島戦」の前編「不沈空母にされたシマ」(左)と後編「激闘下の女性たち」

 しんざとさんは「一こま一こまを大事に描いた。本当に心血を注いだ作品。米兵も日本兵も人間だ。人間的な視点に立って描こうと思った」と語る。

 沖縄戦体験継承の手段として小説や映像、舞台などもあるが「漫画は有効なツールだと思う。特に子どもたちに沖縄戦を知ってもらいたい」と、平和の大切さを伝える思いを込めた。