給付金と社会的分断 大胆な教育無償化政策を<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 自民党と公明党は、18歳以下の子どもに10万円相当を給付する方針で一致した。具体的には現金5万円を早期に給付した上で、来春に向けて5万円相当のクーポンを支給する内容で合意した。この政策の方向性は正しい。ただし、所得制限を導入するという決定には違和感が残る。

 <自民、公明両党は10日、新型コロナ経済対策として一致していた18歳以下の子どもへの10万円相当給付に当たり、年収960万円の所得制限を導入する方針で最終合意した。岸田首相(自民党総裁)と山口公明党代表が官邸で会談し、確認した。政府は自公党首会談での決着を踏まえ、19日の閣議で給付策を盛り込んだ経済対策を決定。経済再生と国民生活の安定に向けて早期給付を目指す。

 /会談には自民党の茂木、公明党の石井両幹事長が同席した。終了後、茂木氏は「960万円以上はかなり高所得の世帯となる。それ以外の9割をカバーすることになり、大半の子どもに支給できる」と合意を評価した>(10日、本紙電子版)。

 18歳以下の子どもに10万円相当を給付することは、国家がコロナ禍で子どもたちを激励するというメッセージ性が含まれている。こういう政策で保護者の収入によって、子どもに分断を作るようなことはすべきでないと思う。

 そもそも日本の教育にはカネがかかりすぎる。義務教育は無償化とされている。確かに授業料、教科書代は無償であるが、給食、体操着、ランドセル、遠足、修学旅行など義務教育レベルでも付随する経費はかなりかかる。

 一定の所得以下だと給食費は免除になる。給食費は銀行振込なので、誰が免除になっているか分からないというのが建前であるが、実際は1年に1回、免除を申請する書類を子どもが教師に提出しなくてはならない。子どもたちの間に分断を作るような現行制度は残酷と思う。中学校では給食を提供していないケースもある。コロナ禍による格差の拡大が学校での子どもたちの食事にも反映している。

 このような状況を抜本的に是正する必要がある。義務教育から圧倒的多数の子どもが進学する高校までの教育費は、その周辺費用を含めて、国か地方自治体が負担する仕組みを作るべきだ。周辺費用には学習塾代も含めるべきだ。小学校高学年以降の教育は、塾に通うことを押し込んでいるというのが実態だ。教育クーポンを発行し、塾代に充当できるようにすればいいと思う。

 財源に関しても、教育については裨益(ひえき)した子どもたちが大人になってから返済すればよいので教育国債を発行することに踏み込むべきだ。コロナ禍で拡大する格差の悪影響を解消するためには大胆な教育無償化政策が必要だ。 

(作家・元外務省主任分析官)