首里城が火災で失われてからもうすぐ2年が経過する。火災は正殿などの建物だけでなく、城内に収蔵されていた美術工芸品にも多大な被害を与えた。美術工芸品の被害調査は2020年度で終わり、21年度から本格的な修理、復元作業が始まっている。作業は専門的な知識や技能が求められるため、対応できる職人は少なく、多数の品を同時並行で進めることはできない。そのため、美術工芸品の修理、復元には建物より長い期間がかかる見込みだ。
正殿は22年度に着工し、26年度に完成する見込みだが、美術工芸品は30年度以降にしか修理、復元に着手できないものもある。10年、20年先を見据えた、地道な作業だ。
首里城を管理・運営する美ら島財団の第三者委員会「首里城美術工芸品等管理委員会」の報告書によると、火災前に収蔵されていた美術工芸品1510点のうち焼失を免れたのは1119点。そのうち修理が必要と判断されたのは364点だった。委員会は修理、復元の計画案も示した。一点一点、劣化の状態を確認しながら優先順位を決めた。現在の技術では修理できず、技術の進展に期待して先送りした品もあるという。
うるま市の文化財修復・表装業者「石川(せきせん)堂」は、絵画の掛け軸「虎之図」(熊代熊斐作、18世紀)と「中山門図」(比嘉崋山作、近代)の修理を請け負った。作業するのは表具師の當間巧代表(41)。表具師とは、絵画や書の作品を掛け軸や屏風(びょうぶ)などの「表具」に飾る職人だ。
「虎之図」は火災時、保存用の木箱に収められていた。高温で蒸し焼き状態になり、表面がでこぼこと波打ってしまった。「中山門図」は、丸められた状態で保管されていたため、ひび割れも目立つ。
當間さんは「湿式法」と呼ばれる伝統的な技法を用い、絵の裏に貼られた複数の和紙を少しずつ丁寧に剥がす予定だ。
剥がした後は新たな和紙を貼り、絵の表面を平らに直し、掛け軸に戻す。絵を裏返して作業するため、絵が台に触れて色が落ちないよう、まずは絵の表面に色止めの「にかわ」を塗っている。塗るのは色の薄い順。一つの色が終わると、乾くのを待って次の色に移る。地道に少しずつ進めなければならない。
新しい和紙を貼る際に使うのりは、接着力が強い化学製品ではなく、数年熟成させた手作りのデンプンのりを使う。再び修理が必要になった時に、剥がしやすくするためだ。時代を超えて脈々とつなぐことを考え、伝統的な技法にこだわっている。
當間さんは「首里城が再建され、展示室に再び飾られた美術品を県民のみなさんに見てもらいたい。そのために自分にできることを少しずつでも進めていく」と話した。
(稲福政俊)