緻密に、地道に、20年見据え 首里城の美術品修復に取り組む「表具師」の思い


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 首里城が火災で失われてからもうすぐ2年が経過する。火災は正殿などの建物だけでなく、城内に収蔵されていた美術工芸品にも多大な被害を与えた。美術工芸品の被害調査は2020年度で終わり、21年度から本格的な修理、復元作業が始まっている。作業は専門的な知識や技能が求められるため、対応できる職人は少なく、多数の品を同時並行で進めることはできない。そのため、美術工芸品の修理、復元には建物より長い期間がかかる見込みだ。

首里城火災で被災した絵画の修復作業に取り組む表具師の當間巧さん=10月14日、うるま市(大城直也撮影)

 正殿は22年度に着工し、26年度に完成する見込みだが、美術工芸品は30年度以降にしか修理、復元に着手できないものもある。10年、20年先を見据えた、地道な作業だ。

 首里城を管理・運営する美ら島財団の第三者委員会「首里城美術工芸品等管理委員会」の報告書によると、火災前に収蔵されていた美術工芸品1510点のうち焼失を免れたのは1119点。そのうち修理が必要と判断されたのは364点だった。委員会は修理、復元の計画案も示した。一点一点、劣化の状態を確認しながら優先順位を決めた。現在の技術では修理できず、技術の進展に期待して先送りした品もあるという。

 うるま市の文化財修復・表装業者「石川(せきせん)堂」は、絵画の掛け軸「虎之図」(熊代熊斐作、18世紀)と「中山門図」(比嘉崋山作、近代)の修理を請け負った。作業するのは表具師の當間巧代表(41)。表具師とは、絵画や書の作品を掛け軸や屏風(びょうぶ)などの「表具」に飾る職人だ。

修復作業について語る表具師の當間巧さん

 「虎之図」は火災時、保存用の木箱に収められていた。高温で蒸し焼き状態になり、表面がでこぼこと波打ってしまった。「中山門図」は、丸められた状態で保管されていたため、ひび割れも目立つ。

 當間さんは「湿式法」と呼ばれる伝統的な技法を用い、絵の裏に貼られた複数の和紙を少しずつ丁寧に剥がす予定だ。

 剥がした後は新たな和紙を貼り、絵の表面を平らに直し、掛け軸に戻す。絵を裏返して作業するため、絵が台に触れて色が落ちないよう、まずは絵の表面に色止めの「にかわ」を塗っている。塗るのは色の薄い順。一つの色が終わると、乾くのを待って次の色に移る。地道に少しずつ進めなければならない。

 新しい和紙を貼る際に使うのりは、接着力が強い化学製品ではなく、数年熟成させた手作りのデンプンのりを使う。再び修理が必要になった時に、剥がしやすくするためだ。時代を超えて脈々とつなぐことを考え、伝統的な技法にこだわっている。

 當間さんは「首里城が再建され、展示室に再び飾られた美術品を県民のみなさんに見てもらいたい。そのために自分にできることを少しずつでも進めていく」と話した。
 (稲福政俊)