「里帰りしたような場所に」10代で妊娠・出産したシングルマザーのシェルター開設 上間陽子さんら代表「おにわ」


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シェルター「おにわ」の共同代表の一人、上間陽子さん(左)と、助産師で寮母の東さよみさん

 若年出産のシングルマザーを保護するシェルター「おにわ」が、1日に本島中部に開設された。「心の支えや頼れる人がいないママが、安心して母親になれるよう支える場所」として生まれたこの場所は、助産師の寮母や看護師、無料学習塾の講師など、さまざまな人たちが関わり合って「里帰りをしているような家」をつくっている。開設日の1日、一人の母親が赤ちゃんと入所した。

 ぽかぽか陽気の取材日。母親が、「おにわ」の自分の部屋を案内してくれた。2階にある、海が見える部屋。カラフルな家具と優しい木漏れ日が「かわいくて落ち着く」ようだ。1階から赤ちゃんの泣き声が聞こえて、駆け下りていった。

 母親はママ友だちに出産の報告をするために、出掛ける準備をし始めた。準備中、寮母の東さよみさんらが赤ちゃんを抱いてあやす。赤ちゃんのベッドには、布製の手作りのボールがあった。「おにわ」共同代表の一人、琉大教授の上間陽子さんの著書「裸足で逃げる」に登場した女性からのプレゼントだ。

 母親は赤ちゃんに声をかけながら、リュックにほ乳瓶とおむつを詰めて、チャイルドシートに赤ちゃんを乗せる。赤ちゃんはシートベルトをしてくれる母親の顔をじっと見詰めて、目が合うとうれしそうに笑った。赤ちゃんに向けるまなざしも、頭をなでる優しい手つきも、どこにでもいる母親と同じに見えた。

上間陽子さんの著書「裸足で逃げる」に登場した女性からの、手作りの布製ボール

頼れる体制

 「おにわ」は10代で妊娠や出産をした女性のための避難所。定員は2人。出生率が全国一高い沖縄では、10代で出産する割合も全国一で推移している。若年妊婦の多くはDV(ドメスティックバイオレンス)や虐待を受けている人が多く、精神的不安で早産するなどリスクも高い。「おにわ」では琉大病院の協力を得て、妊娠から出産までの医療的なサポートも受けられる。利用期間は妊娠8カ月から産後100日まで。平日は助産師の寮母、東さよみさんが常駐して見守り、土日もスタッフが24時間常駐し、母親がいつでもスタッフを頼れる体制を取っている。金融機関で長期間取引がない「休眠預金」を活用したオリオン奨学財団のシングルマザー応援事業として運営が始まったが、シェルター維持にかかる費用のほとんどは寄付でまかなわれている。財団の助成期間が終わる2024年度までに、行政事業として移行できるよう目指している。

支え、甘えるを体感

上間陽子さんの著書「裸足で逃げる」に登場した女性からのメッセージカード

 一般的に、シェルターの多くは保護の観点で、加害者から居場所を特定されないようスマートフォン(スマホ)の使用を禁止したり、外出制限したりする場合が多い。「おにわ」ではスマホを持てるし、いくつかの条件を満たした上で、行き先や時間をスタッフに告げて付添人と一緒に外出することもできる。現場管理を務める上間さんは「彼女たちが安心して生活する時間の中で、自分に必要なものを、自分で考えて見付けてほしい」と話す。「おばあちゃんである自分の母親に赤ちゃんを見てもらいながら、ゆっくり母親になるのは、多くの母親たちがやっていること。ここも同じ。支えがある、甘えられるということを体感しながら、安心して母親になってほしい」と語った。

 母親の女性は、入所して数日は「借りてきた猫」のように静かだったという。東さんは少し心配したようだが、「昨日は大きな声で『ただいま』と言って帰ってきた。夜中には初めて、泣き止まない赤ちゃんに困って、頼ってくれた」と、ほっとした様子で話した。

 「おにわ」を出た後も、母親としての生活は続く。退所後の環境調整は、上間さんと共に共同代表を務める琉球大の本村真教授が担う。寮母の東さんは、「一緒に台所に立って、簡単に作れる料理を教えたい。彼女たちはお産も育児も不安な中でスタートした。支えになって、彼女たちの成功体験を自信につなげたい」と話した。

 「おにわ」では運営資金の寄付を募っている。みらいファンド沖縄 沖縄銀行鳥堀支店、普通口座1442256。
 (嘉数陽)