低い投票率、多い無効票、高い「×」記入率―。31日投開票の衆院選と同時に行われる国民審査について、日本復帰で制度が導入された1972年以降の県内の投票状況をみると、際だった傾向が浮かび上がる。なぜなのか。
国民審査は、最高裁の裁判官が「憲法の番人」にふさわしいかどうかを有権者が判断する。辞めさせたい裁判官がいればその欄に「×」を書き、それが過半数を占めればその裁判官は罷免される。「×」以外を書くと無効だ。
同じ投票所で実施されるのに、特に沖縄では衆院選と国民審査の投票率の開きが大きい。回を追うごとにその差は縮むが、国民審査の投票率は2014年まで沖縄が全国最下位だった。衆院選の投票だけを済ませ、国民審査は「よく分からない」と投票用紙を受け取らなかったり、返却したりして棄権する有権者が多いことが背景にある。
国民審査制度に詳しい明治大学の西川伸一教授(政治学)によると、日本本土では国民審査が始まった1949年からしばらくは、有権者が必ず投票するよう立会人らが指導・監視し、事実上棄権できない状況があった。後に棄権の自由は認められるようになるが、沖縄ではこうした本土の初期のような経験がなく国民審査が始まり、制度が浸透せず投票率が低い一因になっているとみられる。
実際に投票しても、「×」以外を書けば無効となる。沖縄はこの無効投票率も全国一高い。17年の国民審査では県内で投票した約57万7千人のうち約4万2千票(7・28%)が無効で、全国平均(2・99%)を大きく上回った。罷免を求める場合に「×」のみを記入し、白票を投じれば「信任」とみなす制度が十分認知されていると言いがたく、県憲法普及協議会などが毎回のように周知徹底を働き掛けている。
一方、有効票のうち、罷免を求める「×」の割合は沖縄は常に全国平均を大きく上回って推移している。国民審査があった年ごとの対象裁判官全体の「×」票の割合を集計すると、全国平均は93年以降10%を下回っているが、沖縄では常に10%を超え、72年、80年、96年は3割を超え極めて高い。2017年も15・37%で全国一だった。
72年の審査対象の裁判官7人の中には、沖縄返還交渉に関わり「核付き」を容認する趣旨の発言をした下田武三元駐米大使がいた。罷免を求める運動が全国的に起こり、特に下田裁判官に「×」と書いた割合は沖縄で39・59%、全国でも15・17%と、国民審査史上最高を記録した。
96年の国民審査は、大田昌秀県政時代の米軍用地を巡る「代理署名訴訟」の最高裁判決の直後に行われた。判決を不当として審査対象の裁判官9人全員の罷免を求める声が高まり、どの裁判官に対しても「×」票は3割を超えた。
沖縄での罷免を求める割合の高さについて、西川教授は「投票率の低さとも相関するが、米軍基地関連の問題がさまざまあり、最高裁への不満や怒りの表れだろう。国政全般の異議申し立ての表明手段ともなっている」と指摘した。
(當山幸都)