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<佐藤優のウチナー評論>総選挙と価値観 沖縄戦の苦しみ想起を


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佐藤優氏

 いよいよあす31日は衆議院議員総選挙だ。選挙情勢の調査に関し、新聞、雑誌、テレビで公開されたものではなく、政党(複数)が行った非公表の調査もいくつか見たが、今回の選挙ほど予測が分かれたことはない。焦点は自民党がどの程度議席を減らすかだ。野党共闘の成果は限定的で自民党の議席減は若干で、公明党と合わせて3分の2議席以上を獲得するという見方もあれば、野党共闘が功を奏し、与野党伯仲になるという見方もある。与野党僅差の小選挙区が多いので予測が割れるのだ。

 筆者は26日に東京都新宿区役所で期日前投票を済ませた。筆者は三つの基準に照らして最もふさわしいと思う候補者と政党に投票した。第1はコロナ禍で深刻になっている格差を是正する政策だ。第2はグローバリゼーションに歯止めがかかり国家機能が強まっている状況で、ナショナリズムをあおらずに平和を志向していることだ。第3は、コロナ禍が終わった後、日本の経済を成長させる戦略を持っていることだ。経済成長の源は人材育成なので、教育が重要になる。地球生態系を大切にし、ヒューマニズム(人間主義)に立脚する価値観を持つ候補者と政党に投票した。

 沖縄においては、さらにもう一つの基準が加わると思う。沖縄は日本の他の都道府県と異なる歴史と文化を持つ。前の戦争では地上戦で多くの県民が殺され、傷ついた。母は14歳で「石部隊」(陸軍第62師団)の軍属となり、前田高地の戦闘で米軍のガス弾を吸ったため(すぐに防毒マスクを付けたので、母は命が助かったが、防毒マスクを付け遅れた兵士は死んだという)、ステロイド剤が普及するまでぜんそくで苦しんだ。沖縄戦の苦しみの記憶は、2010年に母が79歳で死ぬまで続いた。

 ああいう体験を二度と沖縄人にさせたくない。そのために重要なのは抽象的理念としてではなく、現実的に沖縄の平和を維持することだ。平和を維持するためには沖縄の自己決定権を強化することが重要である。なぜならば日本の中央政府の政治エリート(政治家、官僚)には、この国の圧倒的少数派である沖縄人の心情が皮膚感覚で理解できないからだ。沖縄の現在と将来は沖縄人の手によって決めるという自己決定権は今後一層重要になる。

 その際に、保守とか革新といった伝統的な区分は効力を持たない。保守陣営でも沖縄の自己決定権に固執する政治家はいる。革新陣営でも、日本に同化主義的な政党もある。自己決定権を軸にして考えると、保守や革新、与党や野党、左翼や右翼とは別の分類が可能になると思う。また発言と行動に裏表がないかも政治家を判断する上で判断の材料になる。

 いずれにせよ明日の総選挙は、沖縄と日本の近未来の状況を方向付ける上で重要になる。熟慮した上で、投票してほしい。 

(作家・元外務省主任分析官)