【深掘り】普天間周辺住民と「車座」で…松野官房長官が見せた辺野古移設前提の「対話」


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就任後、初めて玉城デニー知事と会談する松野博一官房長官(左)=6日午後、県庁

 5、6日の日程で就任後初来県した松野博一官房長官は、基地周辺自治体の首長や区長らとの意見交換の場を積極的に設け、「国民の共感と信頼」を掲げる岸田文雄首相のカラーを演出した。一方で、玉城デニー知事との初会談では、米軍普天間飛行場の辺野古移設を「唯一の解決策」とする従来の政府方針を強調し、新基地建設計画の見直しに向けて玉城知事が求める「対話」に新政権が応じる見通しは示されなかった。膠着(こうちゃく)する県との関係をよそに、政府が基地所在市町村との直接のパイプづくりを進める姿勢をうかがわせた。

 第2次安倍晋三政権の発足以降、官房長官・首相として約9年にわたって沖縄政策に深くかかわってきた菅義偉氏が官邸を去り、沖縄政策の官邸主導が弱まるとみる向きもある。岸田政権の沖縄政策を占う上で、衆院選の直後、新政権発足から1カ月を迎えるタイミングでの官房長官来県の狙いが注目された。

車座対話

 松野氏は兼務する沖縄基地負担軽減担当相として、岸田首相が閣僚に指示している「車座対話」を宜野湾市で実施。米軍普天間飛行場周辺の自治会長らに基地被害や地域振興の要望を聞いた。出席者の間には「メモをとり、一言一言かみしめながら話をしていた。負担軽減に取り組むという思いを感じた」(松川正則市長)と好意的な受け止めが広がった。

 県庁で行われた玉城知事との会談は、冒頭以外は報道陣に非公開で行われた。会談を終えた玉城知事は「これから対話の場がつくられていくことに期待したい」との認識を報道陣に示した。

 だが、玉城知事の前に報道陣の取材に対応していた松野氏は、新基地建設を巡る県との協議設定に対し慎重姿勢を崩さなかった。

 辺野古移設を前提としない対話に応じる可能性があるかどうかを問われると、「普天間飛行場が固定化をされ、危険なまま置き去りにされることは絶対に避けなければならない。これは地元の共通認識だと思う」と主張。「辺野古移設の方針に基づいて着実に工事を進めていくことこそが危険性の除去につながる。その上で、これからもさまざまな機会を捉え、対話による信頼を地元と築いていく」と述べ、「対話」はあくまで辺野古移設が前提だとの立場を示唆した。

課題山積

 新基地建設を巡って防衛省は、埋め立て予定区域にある軟弱地盤改良工事など設計変更の承認を県に申請している。玉城知事は「改良工事によって計り知れない環境破壊がもたらされる」と松野氏に指摘したと明らかにしたが、設計変更への対応については「公有水面埋立法に基づく審査を進めているところだ」と述べるにとどめた。

 玉城県政にとっては軽石漂着被害や新たな沖縄振興策など、国との連携が求められる課題も山積しており難しいかじ取りが迫られている。会談後に松野氏は、基地と振興予算の「リンク」を改めて否定したものの、「両課題を総合的に推進すべきという意味で関連する」と強調した。

 玉城知事は「基地問題で(国と県が)対立する状況でも、コロナ対策や軽石対策は対立と言ってはいられない。沖縄振興は県民の将来がかかっており、基地問題と対比されることがあってはならない」とけん制した。

 (塚崎昇平、喜屋武研伍、石井恵理菜)