ドイツを拠点に世界で活躍するアーティストの塩田千春さん(大阪府出身)が、12月4日から来年2月20日まで那覇文化芸術劇場なはーとで展覧会を開く。首里城の焼けた瓦や「希望」に関するメッセージなどを糸でつなぐインスタレーションを展示する。塩田さんに、作品に込める思いなどをメールでインタビューした。
―首里城の瓦を使う作品に込める思いは。
「火災の報道を見て『歴史が燃えていってしまう』とショックを受けた。私は『記憶』をテーマに作品を作っているが、今回の展覧会には『いのちのかたち』というタイトルを付けた。首里城のがれきに新たな命を吹き込み、作品を見た人々の心の中で、首里城の記憶が生き続けてほしいという思いを込めている」
―市民参加型の作品も制作する。
「コロナ禍の中で人々が希望を持つことが難しいと実感している。そんな時代だからこそ、皆さんにそれぞれの『希望』を考えて1枚の紙に書いてもらい、糸でつないで一つの作品にすることで、何かがポジティブに変わるのではないかと思った。展覧会が希望に満ちた空間になれば、とてもうれしい」
―作品制作で「生きるとは何か」「存在とは何か」について探求しているのはなぜか。
「死の問題は生きていたら誰でも直面する。身近なはずなのに考えても分からない。また、ある人が亡くなると、その人はもう存在しないはずなのに、不思議と『存在』をより強く感じることがある。そんな答えの出ない『死』『生』『存在』について問い続け、答えが見つからないからこそ、私は制作活動を続けていけるんだと思う」
―糸でつなぐ手法はどのように生まれたのか。
「もともとは普通に絵を描いていたが、2次元の世界で描くことに限界を感じ『空間に糸で絵を描こう』と思った。糸は空間に絵を描いた『ドローイングの線』だと思っている」
―コロナ下の芸術についてどう感じているか。なはーとへの期待は。
「コロナ禍で経済活動や人の動きは止まったが、創造力は止まることはないと思い、制作活動を続けてきた。創造力は唯一人間だけが持っている特別な能力。コロナ禍でより芸術の大切さを実感できた。つらい時代だからこそ、芸術には人間の心を支えてくれる力がある。なはーとが心を癒やすオアシスのような存在になることを願っている」
(聞き手 伊佐尚記)
塩田さんの作品に用いる、市民の「希望」に関するメッセージを14日までなはーと1階ロビーで募っている。問い合わせは、なはーと(電話)098(861)7810。