平和への祈り、チェロで表現 ヨーヨー・マが沖縄で公演 国内唯一の「バッハプロジェクト」


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ
バッハの「無伴奏チェロ組曲」全曲を独奏するヨーヨー・マ=3日、沖縄市の沖縄アリーナ

 世界で活躍するチェロ奏者ヨーヨー・マの特別ライブ「バッハプロジェクト」の沖縄公演が3日、沖縄市の沖縄アリーナで開かれた。「社会への貢献と平和への祈り」を目的とするプロジェクトは、日本ではヨーヨー・マ自身が沖縄での公演を強く希望し、国内で唯一の公演となった。ライフワークであるバッハの「無伴奏チェロ組曲」全曲を独奏し、チェロの多彩な音域と創造性を感じる演奏に約5千人の観客を引き込んだ。

 2018年8月に米国デンバーを皮切りに世界各地を巡る特別ライブとして世界6大陸36公演での演奏を予定する。新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、沖縄公演は昨年3月から3度の延期を経て実現した。バッハプロジェクトでは「同じ空間にできる限りの多くの人が曲を聞き、平和の心を共有してほしい」との願いも込められる。

 観客からの大きな拍手に包まれる中、かりゆしウエア姿のヨーヨー・マは、にこやかに舞台へ上がり、観客に大きく手を振ってあいさつした。「無伴奏チェロ組曲第1番ト長調」から「第6番ニ長調」まで約2時間をかけて全6曲を演奏した。リラックスした穏やかな表情で、弦や指の繊細な技巧から生まれる演奏が印象的。重厚で慈悲深い音色もあれば、柔らかみのある華やかな音色もあり、さまざまな音域を聞かせた。

 「第2番ニ短調」の演奏を終え、「ちむどんどんイン沖縄! 沖縄が大好きです。これは夢かな? NO! This is dream come true(いや、夢がかなったんだ)」とあいさつし、観客の笑い声があふれた。英語や日本語に加えて「ちむぐくる」「にふぇーでーびる」などのウチナーグチも交え「次は沖縄の心にささげます」と語り「第3番ハ長調」を軽やかに演奏した。

 「第5番ハ短調」の演奏後、「I’m tired(疲れたよ)」とジョークを話し観客を笑わせた。平和への思いを話すヨーヨー・マは「わがうむいくみてぃみるくゆがふ」(平和で豊かな世界を願っている)と語り、最終曲の「第6番ニ長調」を気品を感じるまろやかな音色で披露した。

 観衆の大きな拍手に包まれ「アンコール」に、尊敬するチェロ奏者のカザルスが編曲、演奏したカタルーニャ民謡「鳥の歌」を選んだ。カタルーニャの鳥が「ピース」と鳴くことに由来し、平和を求めるメッセージが込められた曲。繊細な音色を奏で、観客席に笑顔で深々とおじぎし、手を振った。
 (田中芳)