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【全文】沖縄は東京にずっと利用されてきた 『人新世の「資本論」』斎藤幸平さんインタビュー(上)


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オンラインで取材に応じた斎藤幸平さん

 マルクスの新解釈で気候変動問題の解決策を探った『人新世の「資本論」』で注目を集める斎藤幸平さんに、沖縄の諸問題について聞いた。来年で日本復帰50年を迎える沖縄の新たな振興策の在り方や「子どもの貧困」など県内で広がる格差の問題、過重な基地負担ー。問題の根底に潜む、資本主義が生み出す「格差」の存在が見え隠れするという。インタビュー全文を2回に分けて掲載する。(聞き手 安里洋輔、斎藤学)

 ー著書『人新世の「資本論」』が沖縄でも話題だ。
 「『人新世』は地質学の概念で、人間の作り出した地質を指す。私たちの住む地球の表面には、農地があり道路がある。いずれも人類の営みの中でつくり出されたもので、最新の地層の多くには人間の手が介在しているということになる。沖縄の米軍基地も例外ではない。このように、地球上のあらゆる地層に人類が介入した時代が『人新世』ということになる」

 ー「人新世」による気候変動への危機感を訴える。
 「『人新世』がもたらす弊害が顕在化したものが、近年、世界中で相次ぐ気候変動だ。森林を開拓し、農地や工業用地、住宅用地にして行った活発な経済活動で大量の二酸化炭素が地球を覆いつくした。その結果もたらされた温暖化によって気候変動が顕著となり、地球は大きな危機に直面している。いわば、地球から人類へのしっぺ返しが起きている状況だ。未知のウイルスだった新型コロナの蔓延も人類の地球への過剰介入が招いた側面がある。コロナの場合は治療薬の開発が期待できるが、気候変動に特効薬はない」

 ー「人新世」の弊害を加速させたのは。
 「本著で指摘したのが、大量生産・大量消費型の『帝国的生活様式』だ。この生活様式は、資本主義社会がもたらす格差によって成り立っている。ファストファッションに身を包みファストフードを食す。先進国での便利で豊かな生活を維持するために、発展途上国の弱い立場の人々に気候変動の影響のしわ寄せがいく仕組みになっている」

 ー「帝国的生活様式」が生み出す格差についても触れている。
 「日本はバブル崩壊後の約30年間、構造改革、規制緩和、グローバル化を一環して推進してきた。『帝国的生活様式』の持続のためだ。では、それで人々の暮らしは良くなったかといえば、賃金は下がり続け、公共サービスも劣化し、格差も広がっている。現実問題として、『成長』だけを求め続けても暮らしが豊かになっていない」

「人新世の『資本論』」(右)など斎藤幸平さんの近著

 ーマルクスの「資本論」に着目したのは。
 「資本主義が生み出す格差の犠牲となっている沖縄の多くの方にはわかっていただけると思う。マルクスは、強い者が弱い者から収奪するというのが資本主義の本質だと説いた。そういう問題提起を資本論でやった。マルクスが指摘した過剰な資本主義が招く格差は、コロナ禍でも可視化された。解消していくためには平等な社会をつくりだす必要があり、ひいてはそれが持続可能な社会を目指すことにもつながる」

 ー「持続可能な社会」は世界中で課題となっている。解決策として提唱されたSDGsの取り組みには批判的だ。
 「本著でも『SDGsは大衆のアヘンである』と批判した。17項目の目標は、私も全面的に賛成だ。とはいえ、日本では小さな試みをしているに過ぎない。マイボトルとか、マイバッグとか、もっとひどいのはバッジをつけているだけとか。単に自分がいいことをしたと安心したり、満足したりするだけの『ファッション』になっている。これでは本質的な部分から目がそれてしまう。問題なのは、『持続可能な開発目標』が目指すものが、真に必要とされる『地球の持続可能性』ではなく、資本主義を持続的に発展させるためだけの目標になっていることだ。私たちが直面しているのは、資本主義が持続可能的に発展するのは、もはやあり得ないという問題だ。地球の持続可能性を考えるのであれば、メディアも含め、もっと本質的な部分を見る必要があるのではないかと考えている」

 ー沖縄でも格差は深刻な問題だ。
 「私の著書の第1章で言及した『グローバルノース』と『グローバルサウス』の問題と重なる。先進国の『帝国的生活様式』を維持するための豊かな経済発展は、途上国からの労働力の搾取、資源の収奪に基づいて行われている。これは『南北問題』として語られてきた議論だが、グローバル化が進展して格差は国境の垣根も越えた。一方、先進国の中でも途上国のような役割を押しつけられている地域が生まれている。日本も例外でなく、沖縄は、東京という『グローバルノース』にずっと利用されてきている構図にある」

 ー具体的には。
 「国土面積の0.6%しかない沖縄に、在日米軍専用施設の7割以上が押しつけられている。こうした構図のおかげで東京などの他地域は、経済発展にだけ特化できてきた。一方、沖縄は基地が立地しているために、鉄道の建設ができず、産業を自由に発展させることができなかった。一部の権益層は生んだが、雇用の創出もままならず、日常生活さえ脅かされる人たちも生んだ。また、沖縄という『グローバルサウス』の中でも『南北』のさらなる分断が生まれている」

 「一方、本土在住者は、沖縄に基地負担を押しつけることで自分たちが『帝国主義的生活様式』の便利さを享受できているとは、全く考えない。地域住民が抱える不満に対し、政府がやってきたことといえば、お金のばらまきや『箱もの』建設による一時的な不満解消策にとどまる。持続可能ではない、こうした構造に目を向けて格差を解消していく道筋を日本全体で考えていく必要がある」

>>インタビュー後半「沖縄が取り組むべき持続可能な街作りとは?」 に続く