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<書評>『蓬莱の海へ 台湾二・二八事件 失踪した父と家族の軌跡』 父の足跡追うドキュメンタリー

『蓬莱の海へ 台湾二・二八事件 失踪した父と家族の軌跡』青山惠昭著 ボーダーインク・2420円

 台湾で起こった「二・二八事件」は、戒厳令解除の1987年まで最大のタブーとして40年もの間、歴史の闇に隠されていた。日本人にいたっては1936年の昭和のクーデター未遂事件、「二・二六事件」と勘違いする人が多いという。

 著者は戦前の台湾で生まれた「湾生」。父は与論島出身で、母は国頭村の出身。一家が暮らしていた社寮島(現在の和平島)には琉球人集落があり、母方の祖父は社寮島の造船所に勤め、父・惠先氏は鹿児島などでの漁業経験を経て台湾に来た。しかし結婚生活は徴兵と日本の敗戦で一転し、一家は「漂流家族」となる。佐世保に復員した惠先氏は社寮島の家にハガキを送り鹿児島で妻子を待つが、なかなか引き揚げて来ないため闇船で台湾に渡った。だが妻子は僅差で島を後にしており、惠先氏は狂った歯車によって事件に巻き込まれた。

 父の生死も分からぬまま、著者は米軍統治下の国頭村で母子2人の生活を始めるが、本籍が父親の与論村だったことで、1953年の奄美の日本復帰後は「非琉球人」となる。父の失踪宣告を受けるため、その足跡をたどる長い旅路が始まった。

 浮かび上がる与論の過酷な歴史、戦後大陸から来た国民党による台湾の弾圧の歴史、沖縄の戦後史。本書は家族史であり社会史である。それは与論出身の父を持つことでより重層的になる。与論島、鹿児島、佐世保、石垣、与那国、台湾と、父の足跡を追うドキュメンタリーでもある。

 丁寧な取材の過程で、事件の犠牲者に外国人(沖縄県人や他府県人など台湾人以外)が複数人いたことも判明した。著者の執念の行動に心底頭が下がる。

 台湾の人々との交流が深まったことで、著者は父・惠先氏の「認定賠償請求」をし、ついに逆転勝訴を得るに至った。「人権に国境はない」との台湾側の英断で、初めて外国人に適用された画期的な判決だった。しかし後に続く外国人犠牲者の認定賠償請求は難航している。そこには、台湾籍元慰安婦と台湾籍旧日本兵に日本が戦後補償をしていないという壁が立ちはだかっている。

(南ふう・執筆家)


 あおやま・けいしょう 1943年台湾生まれ、グラフィックデザイナー。平和美術展やグループ展などで作品を発表している。現在、財団法人台湾協会や沖縄平和ネットワークなどの会員。
 



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