HIV感染「誰にも言えない」通院休暇、結婚…差別恐れ息潜め きょう世界エイズデー


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HIV治療の医療費助成を受けるために必要な身体障害者手帳を持つミサキさん(仮名)=11月、本島内

 12月1日は「世界エイズデー」。世界レベルでのエイズまん延防止とエイズ患者やHIV感染者に対する支援、差別・偏見の解消を目的として、WHO(世界保健機関)が1988年に定めた。エイズはHIV(エイズウイルス)に感染すると、数年の潜伏期間を経て発症する感染症。かつては「死の病」と呼ばれた。現在は早期発見すると抗HIV薬を服薬して発症を抑えることができる。しかし、HIVの治療をしている当事者は、周囲に知られることを恐れながら生きる。「いつかストレスなく生活できる日が来てほしい」と心から願っている。

 感染が分かっても、1日1~2錠の服薬を続けると、非感染者と変わらないほど余命が延び、通常の社会生活を送れるまでに医療は進んだ。一方で、感染経路のほとんどが男性同性間の性行為であることなどから、当事者らは「感染者」イコール「性的マイノリティー」だと周囲の人から認識されることも多く、偏見を恐れて病気や悩みを打ち明けられない人もいる。

 「この病気は感染した本人が悪いような感じがある。家族や社会から心から受け入れられない気がする」。現在、沖縄県内の病院でHIVの治療をしているミサキさん(仮名)=本島在住、事務職=は、そう心情を吐露する。ミサキさんは家族や友人、同僚などに、感染者であることを明かしていない。偏見などで差別的な対応を受けるのではないかと、不安が拭えないからだ。

 十数年前、肺炎で入院した際に、エイズを発症していることが分かった。性行為により感染したと思われる。腹部から首にかけての帯状疱疹(ほうしん)や、足や腕、陰部、胃など身体のいたるところに赤黒い斑点(カポジ肉腫)が現れた。

 かつてテレビで見たエイズ末期患者が同じような症状で苦しんでいた姿が頭をよぎった。「自分も同じような状況にあるのかもしれない」と、目の前が真っ暗になった。「将来が閉ざされたような気持ちになって、早期の死もあるのかもしれないと焦った」。不安で眠れず、毎晩一人になると涙が止まらなかった。

 3カ月間入院し、その後半年は、約1日おきに通院した。薬の重い副作用に耐えながら、キャリアアップのために仕事に励んだ。入院して職場に迷惑をかけたと思い、弱音は吐けなかった。現在は仕事を続けながら、3~4カ月に一度、通院している。

 今一番不安なのは、何らかの拍子で、周囲に感染が知られてしまうことだ。例えば、通院時の休暇申請を怪しまれないか。職場で義務付けられている人間ドックの結果に、感染が分かる情報がないか。感染を知られると、出世に響くのではないか。親が悲しむのではないか。友人が去ってはいかないか。結婚する場合、子どもを簡単にはつくれないことを含めて、理解してくれるパートナーはいるのか―。常に病気のことが頭をよぎる。

 現在の医療では、HIVは完治できない。いつか完治薬が開発されることを夢見ている。「遠くない将来、感染者が、非感染者とともに普通にストレスなく生活して社会活動ができるような、より住みやすい環境が訪れてほしい」。そう切に願っている。(嶋岡すみれ)