目が見えない人への対応 車いすトラベラー・三代達也<未来へいっぽにほ>


この記事を書いた人 Avatar photo 大城 周子

 先日エレベーターで、白杖(はくじょう)を持った男性と一緒になった。男性はエレベーターを降りると、カツンカツンと白杖を床に当てながら、まっすぐ柱のほうに向かって歩いて行った。おそらく、あの柱に白杖が当たったタイミングで、彼は軌道修正をして少しずつ先に進むんだろうな。そう直感で思った。でも僕は、思わず口に出してしまった。
 「目の前に柱がありますよ! どちらに向かうのですか?」「ありがとうございます。駅に向かっているのですが、このまままっすぐでよろしいですか?」「そのままだと壁に当たってしまうので、少し右です」「ありがとうございます。では…」
 と言うと、彼は僕の想像以上に右に行ってしまったので、「すみません! もう少し左です!」と言った。しかし今度は逆に、少ししか左に曲がってもらえず…。どうしようと困惑していたら、数年前にバリアフリーセミナーで習った、クロックポジションを思い出した。
 視覚障がいのある人は進行方向(目の前)が12時、右が3時、後ろ(手前)が6時、左が9時と認識する、というようなことを学んだ。これは配膳の時の説明にも使われるらしい。サラダが2時、ご飯が4時、調味料が9時の場所にありますよといった感じ。
 間違ってるかもしれないけど、ダメ元で勇気を出して言ってみた。「11時の方向に進んでください!」。すると彼は、えっ!? と驚いたように体を震わせて、「素晴らしい対応をありがとうございました」と一言僕に向けてお礼をした後に、まっすぐ駅へと向かって行った。数年前に学び、そして忘れかけていた知識がこんなところで役に立つとは思わなかった。普段助けてもらうことが多い立場だからこそ、逆の立場になれて心の底からうれしかった。