「車なし、地盤なし、事務所なし」のないないづくしの選挙で糸満市議に初当選した賀数郁美さん(38)。「おまえの選挙では(当選は)無理」と言われたが、トップ10で議席を勝ち取った。
2年前、市内でオーガニックカフェを始めた。2020年9月、娘の小学校入学を前に学校給食について調べたところ、地域の食材は使われていないことが分かった。身体にもっといい調味料などを使った給食は出せないか。「当事者になり、自分がやらないと変わらない」と思った。
21年8月に沖縄オーガニック給食推進協会を設立。市内給食に有機無農薬食材を使用することや最終的には医療費負担の軽減を考えている。そのためには政治を変えることが必要だと感じ、立候補を決意した。
「(選挙は)めっちゃ楽しかった」。妻・芳子さん(37)と応援隊事務局長の平良恵里佳さん(36)は声をそろえる。選挙事務所は借りず、夫婦で経営するオーガニックカフェを活動拠点とした。
街頭演説は自家用車で市内各地を巡った。「選挙カーは音は大きいが、遠くまでクリアに聞こえない」と、音質の良いスピーカーを借りた。寝ている子どもや赤ちゃんを起こしたくないとの思いから、昼寝の時間は避けるようにした。
芳子さんは「みんなが一つの物をつくっている感じがした」と振り返る。フェイスブックグループには、県内外から同級生やオーガニック給食推進の取り組みに共感した「かかずいくみ応援隊」165人が控え、仕事や家事の合間に手伝いに駆けつけた。多くは子育て世代。子どもの面倒を見る人と、選挙活動を手伝う人で自然と役割を分担し、支え合うことができた。
SNSでの発信にも力を入れた。10月の出馬表明後、インスタグラムのフォロワーは600人以上増。住む地域や年代を分析し、対象を絞ったライブ配信を心掛けた。子育て世代や農家仲間から寄せられた応援動画も紹介。支持する理由を語ってくれた。
「政治に興味があっても、お金がなくて選挙に出られない人もいるのでは」―。そんな問題意識も持って臨んだ今選挙。全てボランティア活動で、人件費は発生しなかった。
市選管によると、今回の選挙費用は立候補者1人当たり約50万円(供託金を除く)。のぼりや横断幕の掲示自粛が市議会で決議されたため、費用が抑えられたという。賀数さんはさらに16万円抑え、約34万円だった。次回の選挙も選挙カーなし、後援会事務所なしで挑戦するつもりだ。
(比嘉璃子)