NHK近藤芳美賞に大甘氏 県内初の選者賞 <年末回顧2021 短歌>


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 今年もコロナウイルスの嵐は世界を震撼(しんかん)させ、諸々の経済、文化の活動をまひさせた。多くの短歌大会も中止かまたは紙上大会に変更を余儀なくされた。

 まず、1月「NHK全国短歌大会」で近藤芳美賞の選者賞に大甘が選ばれた。県内歌人の選者賞は初めてである。一首を引く。

 「食パンに蜜ぬり終えて今朝もまた沖縄島で匙を舐めてる」

 三枝昂之選の秀作に友寄英毅、坂井修一選の秀作に金城光泰が入賞しました。

 2月、平山良明の第一歌集『あけもどろの島』が現代短歌社より文庫本として出版された。50年前の歌集であるが詠われていることは色あせることはない。沖縄歌壇を引っ張ってこられた著者が米軍基地に苦しめられている現在のわれわれに氏の生きざまを突き付けている。二首を引く。

 「人の世の深き悲しみくり返すあけもどろの花咲いわたる島」

 「沖縄の心を知らぬ心という心に向きて歩き続ける」

 3月、「第11回角川全国短歌大会」で審査委員特別賞を謝花秀子が受賞し、同じ歌が馬場あき子の特選にも選ばれ、野田勝栄も特選に選ばれた。謝花秀子の一首を引く。

 「沖縄を返せと歌いし遠き日よ復帰せし祖国の温度差を知る」

 8月、玉城洋子が第六歌集『儒良・ザン』を上梓した。玉城は歌誌『くれない』を主宰し毎月会員の歌評を行い、今年の12月で234号を数えた。大変なエネルギーである。沖縄に生きる歌人として「戦争と基地」をぶれることなく真摯(しんし)に詠い続けている。二首を引く。

 「どうしても語り継がねばならぬもの沖縄戦の地獄その果て」

 「血に染まる異国の基地に誰がした沖縄の海よ空よ風よ」

 9月、佐藤モニカが第二歌集『白亜紀の風』を上梓した。若い者の歌集出版は沖縄短歌会の未来を明るくしてくれる、うれしいことである。『白亜紀の風』は豊かな叙情の世界に満ちあふれ、夫や子への優しいまなざしの歌が多くみられる。二首を引く。

 「二十年の長き時間をたゆたひてたゆたひやまず辺野古の海は」

 「黒糖を溶かしつつ思ふすんなりと消えざるものがこの島にある」

 10月、「日本歌人クラブ第42回全日本短歌大会」では秀作賞に比嘉道子、優良賞に与儀典子、奨励賞に下地能子、久場勝治が入賞した。比嘉道子の一首を引く。

 「二十四万の赤き血吸いたる沖縄の土もの言いたげに仏桑花ひらく」

 11月、「日本歌人クラブ第25回全九州短歌大会」はコロナ禍の下に紙上大会となった。久場勝治が現代短歌社賞と寺地悟の選者賞、さらに内藤健司の選者賞のトリプル受賞に輝いた。歌を引く。

 「『ひめゆり』の戦を語るかたり部の碑文のごとく刻まれし皺」

 比嘉道子が選者鹿井いつ子賞、謝花秀子が選者永吉京子賞を受賞した。

 11月、「第4回御茶屋御殿文芸大会」は紙上大会となった。コロナ禍の下で大会にこぎつけ、作品集を発刊された大会事務局の労をたたえたい。各部門の知事賞を引く。

 「『よみがえれ』首里城跡をみて願う永遠に輝け沖縄と共に」(「子ども短歌」=首里中2年大城来珠)

 「慰霊の日心に誓った午後0時両手合わせて命どぅ宝」(「学生短歌」=那覇高2年座波香苗)

 「余熱冷めし登り窯より赤子抱くごと取り出す壷・皿・シーサー」(「短歌」=名護市宮城鶴子)

 「第17回おきなわ文学賞」は短歌の部で一席を与那城政子、二席を新垣幸恵、佳作を瑞慶村悦子、安仁屋升子、宮里真依がそれぞれ受賞した。

 沖縄県内の各結社・同好会等はそれぞれ短歌誌を発刊、地道に活動を続けている。『黄金花』は59・60合併号で楚南弘子氏の特集を組んだ。充実した内容となっている。楚南弘子の二首を引く。

 「老ゆるとはかくも優しきものにして怒り悲しみ淡くなりゆく」

 「潮騒を祷りと詠みし友のあり喜屋武の岬の遠き潮騒」

 玉城洋子主宰の『くれない』は毎月発刊。県内外の歌人の歌を多く集約している。特筆すべきは歴史学者の平良宗潤氏が沖縄の戦後史を庶民の視線で連載している。私たちの歌作りの参考になっている。さらに、県外の十鳥敏夫氏の『くれないを読む』がある。毎号、『くれない』の歌人の歌を丁寧に評しておられる。十鳥氏の熱意をたたえたい。

 『かりん沖縄 参』は短歌とエッセー。個性豊かで、叙情あふれる内容がよい。『梯梧の花』は春季、秋季と発刊通算99号に到達した。『おきなわ武都紀』も地道に発刊を継続している。労を是としたい。合同歌集『花ゆうな』は第27集を発刊した。三人の会は『蔓茱萸・つるぐみ』5、6、7号を出した。意気軒高である。

 「第42回琉球歌壇賞」は仲本恵子が受賞した。その他、全国短歌誌での県内歌人の投稿も多くあり、評論、書評での活躍も見受けられる。コロナ禍に負けず来年の皆様の活躍に期待したい。

 (敬称略)

 (歌人・未来会員)
 (おわり)
 


 

 とうま・じっこう 1943年生まれ、豊見城市在住。早大卒業後、県立高校の国語教員を32年間務める。2004年、「未来」に入会する。08年におきなわ文学賞短歌部門一席県知事賞受賞。歌集に『大嶺崎』『喜屋武岬』。第41回琉球歌壇賞受賞。歌文集『蔓茱萸』を定期発刊。