ハンセン病考える契機に 沖縄県内の療養所の日常撮影  T3フォトフェスグランプリの木村直さん


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受賞作品「みちしるべ」より「国立療養所 沖縄愛楽園 一区」(木村直さん提供)

 沖縄県内の元ハンセン病療養所の入所者の暮らしぶりを撮影し、発表している写真家で東京芸術大学大学院生の木村直さん(23)の作品がこのほど、写真コンペティション「T3フォトフェスティバル」でグランプリを受賞した。コンペには全国14の美術大学や専門学校から選抜された約80の生徒が参加した。木村さんは「若い世代がハンセン病問題について考えるきっかけになればと願っている」と話した。

 T3の審査員の一人、台湾芸術大学准教授のシェン・ジャオリャンさんは「内容も編集者も成熟していて、めくっていくうちに引きつけられる。完成度の高い作品だ」と評価した。

 受賞した作品は、名護市の「沖縄愛楽園」と宮古島市の「宮古南静園」に2016年から19年にかけて通い、入所者との交流を深める中で撮りためてきたもの。

木村直さん

 木村さんは差別と偏見に傷つけられ、心と体の傷を隠してきた人々を記録することに「撮る暴力ではないかとの迷いを抱えながら通っている」と明かす。

 支えになっているのはある入所者の女性の言葉だ。「若者が私の隣に座っているなんていい時代になった。あなたが隣に座ってくれて、私は今日、感謝して死ねる」

 木村さんは「女性がなぜこう私に語ったのか、いろいろな人と考えていく機会を創出したい」と話す。

 受賞作「みちしるべ」は4年間で撮影した写真の中から「みちしるべ」と題して69枚の写真をまとめた。風に揺れる洗濯物や入所者宅の冷蔵庫、園内の海で遊ぶ犬。何気ない日常を切り取った。

 木村さんは「(入所者が)結婚したり、ご飯を食べたり、友人付き合いがあったりという断片を少しでも残していきたい。後世の若者が現実感を持って療養者や入所者が残した物に目を向け、思いをはせることで身近に感じられるのではないかと考えている」と語った。

 受賞作品「みちしるべ」は(QRコード)で閲覧できる。(佐野真慈)

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