<書評>『沖縄ひとモノガタリ』 「ちいさな言葉」から知る現在


社会
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『沖縄ひとモノガタリ』文・藤井誠二 写真・ジャン松元 琉球新報社・1870円

 琉球新報紙上で約3年間にわたって連載された記事を中心に、ポートフォリオをあわせて一冊にまとめた「異色」の人物ルポ。異色と表現したのは他でもない。

 登場人物は56人。名の知れた人もいれば無名の人も多い。業界もさまざまで、背景や出身地も白と黒ほどに異なっている。

 なかには、「落語イベンター」「飲酒運転根絶アドバイザー」「スラッシュワーカー」など、ひと言では説明できない活動をしている人たちも登場する。そこに、直木賞作家やアガサ・クリスティ賞作家、さらには県知事も加わっているから異色本というほかないのだ。

 そんな種々雑多な人々を舫(もや)っているのが、「沖縄」である。つまり、沖縄という土壌を縦軸に、何らかのかたちで沖縄と関わっている人々を横軸にして、そこで交差・錯綜(さくそう)する混沌(こんとん)とした沖縄のリアルな姿を浮き彫りにした一冊といおうか。聞き手の藤井誠二は取材相手に本音を語らせる巧者である。

 「語りの中のちいさな言葉を拾い、反芻(はんすう)してみると、それらは沖縄を相対化し、客観化していた」

 藤井自身があとがきに記した一節である。彼はその「ちいさな言葉」からむしり取った本質をまな板にのせる。ふだんは見えてこない沖縄が肉塊としてさらされる瞬間である。

 「三線人口は増えたが、民謡は減った」と語る民謡歌手。ここでは述べ語り継ぐ歌詞がもはや生まれない沖縄の現実が露呈されている。

 「保守も革新も男尊女卑的だ」と沖縄の人権意識の低さを辛辣(しんらつ)に批判する編集者。沖縄固有の文化や言葉に潜む加害者性や違和感を訴える人も少なくない。

 文化や思想は耕すものであって、固めるものではない―。56人が繰り出す「ちいさな言葉」にはそんな鋭いツッコミがちりばめられているように思える。

 いいかえれば、本書は文化の土壌を肥やす層が沖縄には汲(く)めども尽きぬほどいるという証でもあるのだ。沖縄の現在(いま)を知るための捻(ひね)りの利いた一冊といっていい。

 (仲村清司・作家)


 ふじい・せいじ 1965年愛知県生まれ、ノンフィクションライター。「殺された側の論理」「体罰はなぜなくならないのか」など著書多数。「沖縄アンダーグラウンド―売春街を生きた者たち」で沖縄書店大賞受賞。

 じゃん・まつもと 1962年金武町生まれ。フリーランス写真家として、働く障がい者を記録した「ありのまま」「続・ありのまま」、「世界遺産首里城」の写真集がある。現在は琉球新報社編集局写真映像班に在籍。


文・藤井誠二 写真・ジャン松元
A5判 244頁(オールカラー)

¥1,870(税込)