糸満市真栄里の白梅之塔に隣接する「マチドーヌティラ」(下の壕)が閉鎖され、2カ月が過ぎた。沖縄戦で負傷兵の看護に動員された学徒らが亡くなったガマで、新型コロナウイルス禍前は平和学習で年間約2万人が訪れた。関係者からは整備を求める声が上がっていたが、今も手つかずのままだ。元白梅学徒の中山きくさん(93)は下の壕で6人の仲間を失った。昨年12月に取材した際、「ガマに入らないと平和学習ができないわけではないが、もし整備できるのなら市や県、国が整備するのが一番良い」と話していた。
マチドーヌティラは古くから拝所として親しまれ、近くの国吉自治会は旧暦行事で利用してきた。昨年10月、行事前にガマ周辺の草木を刈った際、ガマ入り口上部の岩壁が一部崩落した。風化が原因とみられる。関係者からの要望もあり、一度は注意書きを掲示した上でガマの公開継続を考えた。だが糸満市と協議の上、事故があった際に自治会は責任を負えないと判断。11月中旬、入り口にロープを張ってガマを閉鎖した。
「自治会の力で修復できるものではない。市や県、国による対策があれば」と、神谷正和自治会長はため息交じりに話す。修復支援を求めたが、市は自然壕に対する支援措置がないことを理由に断った。
糸満市は2016年3月に「市戦争遺構保全・活用整備事業(基本計画)業務報告書」を作成。市内240あるガマのうち、安全性などの条件を満たす7カ所について平和学習や平和観光の環境を整えるため、どのような整備が可能かを調査・検討した。下の壕もその対象となっていた。
市秘書広報課によると、これまでに風化による落石などが原因で閉鎖されたガマは下の壕を含む2カ所。いずれも現時点で修復や保全に向けた検討はしていない。同課は「市内に240カ所のガマがあり、特定のガマの支援は財政的に厳しい」と説明する。
予算のほか、地権者不明で調査や整備への意向確認ができないこと、保全・活用の手法やどのガマから着手するか、優先順位の検討などが必要であることも課題となっている。
担当者は「どのガマも住民の歴史や思いがある中で、3Dなどを活用した入壕しない(平和学習の)やり方もあると思う」と話す。周辺市町村の取り組みを調査し、市が取れる対応を検討したいとしている。
県観光ボランティアガイド友の会は、約2年前から平和学習で下の壕を利用するようになった。18年に崩落の危険性があるとして、それまで利用していた「マヤーアブ」が県によって閉鎖されたからだ。
下の壕は3月まで入壕を希望する修学旅行団の予約が入っていたため、現在は別のガマや戦跡へ案内先を変更するなど対応に追われている。だが沖縄戦から77年が過ぎ、ガマの風化も進んでいる。高嶺典子事務局長は「ガマを朽ちるまで放置していていいのか。そのうちほかの壕にも入れなくなる」と、危機感を募らせた。
(比嘉璃子)