目立つのに身を隠す模様「分断色」 琉球大農学部准教授・鶴井香織<未来へいっぽにほ>


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 人間は古くから、一部の生物の模様に隠蔽(いんぺい)(カムフラージュ方法の一つ)効果があることを経験的に知っていた。軍服や戦車の迷彩パターンは、生物の模様が持つ隠蔽効果を応用したものだ。このように隠蔽効果を持つ生物の体の色や模様を隠蔽色(保護色)と呼ぶ。隠蔽色の主な役割は、鳥や魚などの目の良い天敵から見つからないようにして身を守ることだ。隠蔽色といえば、海底の砂上にいるカレイのように、背景色と体色が似ていることで隠れる背景合致(バックグラウンドマッチング)を思いつく方が多いかもしれない。今回は別の隠蔽色の一種で、一見目立ちそうにも見える模様が隠蔽効果を発揮する「分断色」について掘り下げる。

 分断色は体の輪郭を横切るように配置された、コントラストの強い模様(例えば白地に黒い斑紋)のことで、生物の輪郭の検出を妨げる。一部の蛾(が)のはねの模様はクッキリした大胆なデザインだが、これは分断色だと思われる。

 分断色は1940年から知られていたが、その隠蔽効果を初めて科学的に実証したのはイギリスのカットヒル教授らで、2005年に最も権威ある科学雑誌の一つである『Nature』に論文発表した。教授らは、紙で作った分断色を持つ蛾と持たない蛾の模型を鳥に探させ、分断色を持つ方が発見されにくいことを示したのだ。

 この頃、私は大学院生で、同じ構想の研究を進めていた。この日のことは今もよく覚えている。指導教官の先生はあと一歩で先を越されたことを惜しがったが、私にとっては、自分の素朴な探求心から始まった研究が世界で通用すると実感し、研究者への道の扉が開いた瞬間だった。私はカットヒル教授と違い、実際のバッタで実験を進めていた。実際の生物による実証が重要だと思った私は、分断色の研究を続けた。

 (次回に続く)