【名護】名護市汀間の山内範正(のりまさ)さん(81)は二十歳すぎから見よう見まねで琉歌作りを始め、これまでに詠んだ琉歌は3千首を超える。「朝夕(あさゆ)祖父母(ウメーパーパー)が あまた諭事(ゆしぐとう)や 我(わ)が琉歌(うた)ぬ道ぬ 字引(じびき)なとぅさ」。話題豊富だった祖父母の数々の教えが、自分の琉歌作りの基になっていると詠(うた)う。
山内さんは、若い頃から習い覚えた組踊や琉舞(女踊)などの素養も琉歌作りの肥やしになっていると言い、「さんぱちろく(八・八・八・六)の韻律が天から降ってくるように口をついて出る」と笑う。
これまで恩納村、浦添市、糸満市など各自治体や団体が公募した作品の受賞や愛好者らによる「琉歌伊集の会」立ち上げにも参画。2017年には沖縄県しまくとぅば普及功労者として県知事から表彰された。50歳を過ぎてから琉球新報や沖縄タイムスへの琉歌の投稿を始め、さらにその技量を高めていった。
00年に琉歌集「百(むむ)ぬ琉歌(うた)ぐくる」(琉歌170首としまうた34首)を自費出版。08年には同2集(同197首と18首)、20年に同3集(同102首と8首)を出版した。しまうた文化研究会の仲宗根幸市会長(故人)は第1集発刊の辞で「久志やんばるにきら星のような琉歌(うた)詠みがいる」「稀(まれ)にみる琉歌の泉を湛(たた)えた吟詠者」と評した。第2集では県内2紙の琉歌欄から「肝心(ちむぐくる)」「肝愛(ちむがな)さ」など「肝」に関する553もの語句を採録し、発刊の辞で汀間区の松田藤子さんは「肝言葉表現辞典」と評している。
花鳥風月、冠婚葬祭、時事社会問題など人生の喜怒哀楽を縦横無尽に詠い上げる山内さんの琉歌は仲間からの評価が高く、遊び心も満載。「名護ぬしま言葉 大兼久大母(ぽんがにくぽーあんま) かんにん面白や 名護ぬ言葉 アンヤサやーパピプペポー」と名護言葉をユーモラスに詠っている。
「島言葉を忘れると、世も失う」と山内さん。若い世代へ島言葉の伝承を期待している。
(嶺井政康通信員)