1950年代の「島ぐるみ闘争」を題材にした演劇「命(ぬち)どぅ宝」(劇団文化座主催、琉球新報社共催、杉浦久幸作、鵜山仁演出)が10、11の両日、那覇市泉崎の琉球新報ホールであった。2度の開催延期から約2年越しの開催となり、沖縄では初上演となった。米軍占領下の伊江島で土地接収に非暴力で抵抗した阿波根昌鴻(しょうこう)と、米統治下で圧政と闘った政治家・瀬長亀次郎ら日本復帰にかける人々の苦難や情景を描き、反戦平和を伝えた。
(文・田中芳、写真・喜瀬守昭)
作品は、劇団代表を務める佐々木愛の企画で2017年に初演。阿波根が瀬長に宛てた手紙が見つかったことをきっかけに、舞台化が企画された。沖縄の日本復帰50年に同ホールで上演されたことの意義も大きい。主人公である阿波根、瀬長らの重要な発言などは2人の著書や日記が基になっている。場面は1950年代の2人の行動が行き交うように展開された。60年の祖国復帰協議会発足までの約10年間を描いた。
沖縄人民党書記長として多くの県民から支持を受けていた亀次郎(藤原章寛)の沖縄群島知事選挙の立会演説会の場面で始まる。「沖縄70万県民が叫んだならば、太平洋の荒波を越えてワシントン政府を動かすことができます!」と、団結して声を上げることの大切さを訴える。亀次郎の演説を再現するように藤原が力強く語り掛け、観客の拍手が沸き起こった。
米軍の爆撃演習地を巡る土地闘争に揺れる伊江島で、銃剣とブルドーザーで家や土地を奪われた農民たちは、生きるために柵内耕作を強行し、通行許可書の受け取りを拒否する。阿波根(白幡大介)を中心に住民たちは「陳情規定」を作り、抗議活動を続ける。栄養失調で島の住民に死亡者が出始める。アハシャガマで戦争を生き延びたおばぁ、知念マサ(佐々木)が、本島で抗議活動を続ける阿波根に島の現状を訴える場面も圧倒した。
阿波根ら住民たちは「乞食行進」をすることを決め、沖縄本島を回り、伊江島の状況を訴える。瀬長は人民党事件の投獄から釈放され、那覇市長選挙で当選。「島ぐるみ闘争」が沖縄本島全体の動きに広がる。
終盤、不発弾の爆発で島の若者が亡くなる場面で、阿波根は「これからは私たちの道理にのっとって動いていきます。戦争をすることは国の恥だよ、と根気よく教えてやらなくてはならないんです。『命どぅ宝だよ』」と訴える。農民らが米軍の演習場に入って、骨を先祖の墓へ返すシーンでは涙を拭う観客もいた。
ほか出演は、屋良朝苗役の青木和宣ら。終演後の舞台あいさつで佐々木が「日本復帰50年の年に沖縄で公演でき、とてもうれしい。これからも全国で巡回したい」と語ると、観客の拍手や指笛が、会場外にまで響き渡った。13日には名護市民会館大ホールで上演された。
劇団文化座設立80周年、日本復帰50年特別公演の一環。言葉指導は津嘉山正種、舞踊指導は児玉由利子。