24日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナに対する「特別軍事作戦」の発動を命じた。事実上のウクライナに対する侵攻だ。ロシアは、ソ連時代から他国に侵攻する場合は国際法的擬制を整える。今回のロシアの動きを見てみよう。
21日、プーチン大統領が、ウクライナ東部のルハンスク州(ロシア語ではルガンスク州)の2分の1、ドネツク州の3分の1を実効支配する親ロシア派武装勢力(「ルガンスク人民共和国」、「ドネツク人民共和国」を自称)の国家としての独立を認める大統領令にクレムリンで署名した。
大統領令を署名した直後にプーチン氏は「ルガンスク人民共和国」パーセチュニク首長、「ドネツク人民共和国」のプシーリン首長とそれぞれ「友好、協力、相互援助条約」に署名した。この条約に基づきロシアは正規軍を両「人民共和国」に派遣することが可能になった。
今回の事態に至るにはウクライナのゼレンスキー大統領にも大きな責任がある。親ロシア派武装勢力が実効支配する地域に「特別の統治体制」を導入するための憲法改正をウクライナは2015年の「第2ミンスク合意」で約束した。しかし、19年に大統領に就任したゼレンスキー氏はその履行をかたくなに拒否した。
ウクライナが「ミンスク合意」を履行する意思を持たないと判断し、プーチン氏は両「人民共和国」領域のロシア人を守るために軍事介入を決断した。ウクライナ、欧米諸国は、ウクライナ政府軍による攻撃というのはロシアが糸を引く親ロシア派武装勢力による「自作自演」と主張するが、ロシアメディアの現地からの報道、避難民のインタビューから判断すると、現在起きている事態が「芝居」であるとは思えない。
しかし、今回、ロシアの取った行為は均衡を失している。1968年のチェコスロバキア侵攻の際、「社会主義共同体の利益が毀損(きそん)される場合、個別国家の主権が制限されることがある」という「制限主権論」(ブレジネフドクトリン)で侵攻を正当化した。ロシアの利益のためウクライナの主権が制限されるというのがプーチン氏の発想だ。断じて認めることはできない。
ここでは価値判断をとりあえず括弧に入れて、プーチン大統領の思惑について筆者の見方を記す。
1、プーチン氏の目的は二つある。一つはドネツク州とルハンスク州のロシア系住民を守ることだ。もう一つは、ウクライナの軍事力に壊滅的打撃を与えて、二度とロシアに対抗しないようにすることだ。そのためにはゼレンスキー大統領を失脚させる。
2、「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」は、それぞれの憲法でルガンスク州、ドネツク州の全域を自国領土としている。ウクライナにもはやルハンスク州、ドネツク州は存在しないと主張し、両州の全域をロシア軍が占領する。
3、キエフ、オデッサなどをミサイル攻撃したのは、軍事通信システムの破壊が目的で、ドネツク州、ルハンスク州以外のウクライナ領を占領することは差し控える。ただし軍事的必要があれば、2州以外でも戦闘を展開する。
4、戦闘は比較的短期間で、ロシアの勝利によって終結する。
5、欧米や日本は、当初、激しく反発し、最大限の制裁をロシアに対してかけるが、軍事介入はできない戦闘が短期で終了すれば、国際社会もいずれ現状を追認せざるを得なくなる。
大国が国家間係争を戦争で解決することを辞さない新帝国主義の時代が始まった。
(作家・元外務省主任分析官)