樹齢250年を誇る国指定天然記念物「五枝の松」があり、夏場になると近くの小川にはクメジマボタルが飛ぶ。久米島町上江洲の久間地自治会(仲地雄二会長)は、21世帯42人(1月現在)が暮らす自然豊かな小規模集落だ。
のどかな雰囲気とは裏腹に、住民らは刻々と進む高齢化に危機感を抱く。「『限界集落』をどう盛り上げるか。過去には隣の集落との合併も考えた」(仲地会長)。土俵際まで追い詰められた同自治会は、外から移り住んできた若者たちを受け入れた。
観光業を営む若者たちが観光客を呼び込み、地域住民と交流することで移住希望者が出てきている。国の「地方創生」で重要視される、都市部に住みながら継続して地域に関わる「関係人口」が過疎地域に活力をもたらしつつある。
きっかけは沖縄在来馬の観光牧場「久米島馬牧場」を営む井上福太郎さん(38)=大阪府出身=が、2016年ごろに集落に移り住んできたことだ。井上さんは06年ごろから久米島に住んでいるが、牧場の安定的な運営のため町内を転々とする時期もあった。
高齢化にあえぐ久間地自治会は井上さんを受け入れた。仲地会長は「うちは限界集落だから後がない。人を増やさないと集落が持たない」と話す。井上さんの移住を機に、自治会は月1回の定例会を模合に変更した。牧場を訪れる観光客も参加するようになり、地域を気に入った人が集落への移住を希望するようになった。
当初、住民らは外の人を受け入れることに抵抗があった。だが模合を通じて移住希望者の人柄を知り、地域行事への参加を要望した。仲地会長は「移住者は地域行事などに参加せず自分たち以外に関心がないと聞いていて、最初は受け入れに抵抗があった。だけど酒盛りを通じてこの地域に住む上で必要なことを伝え、『まずは受け入れよう』となった」と振り返った。
現在久間地には県外から来て家を建てたり、沖縄本島から久間地へ移り住むことを計画したりする若いカップルがいる。定年退職を機に久間地に家を建て、月の半分を過ごす湯原敦さん(61)=東京=は「地域が自分を受け入れてくれるか心配だったけど、交流を通して好意的に接してくれた。何かの時に助けが必要になるかもしれない。誰も知らない土地に行くよりも、知っている人がいる土地がいい」と話した。
井上さんは今、3人の社員を率いて、集落内の古民家を自前で修繕し、カフェや宿にする計画を立てている。「これからの若い世代は、スケールが小さくても自分たちのやりたいことができる環境があるかどうかが重要なテーマになる。自分の好きなことができると、地域や島に対して当事者意識を持てるようになる」と語った。
(梅田正覚)