<書評>『志縁のおんな もろさわようことわたしたち』求道者のまなざしに迫る


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『志縁のおんな もろさわようことわたしたち』河原千春著 一葉社・3300円

 本書は、2019年に信濃毎日新聞で連載された「夢に飛ぶ―もろさわようこ、94歳の青春」を一冊にまとめたものである。

 もろさわさんは、ジェンダーということばがまだなかった時代に、女性の視点で歴史を捉え直した先駆者。「女」が、蔑みの差別用語であった当時、「沖縄おんな紀行」「おんなの戦後史」など、あえて「おんな」と表した。今風に言えば、「私、おんなですが、それが何か?」という感じだろうか。

 20歳で迎えた敗戦、軍国少女だった価値観が覆され、以後、他から与えられた言葉ではなく、「自分が見て、手触り、考える」ことを信条としてきた。「“女性史研究家”は人様がつけてくれた通行手形、なぜ自分は生きなければならないのかと、人間として生きる意味を探っている中で言葉が出てきた。何者でもなく、ただの求道者でしかない」と語る。発した言葉は、「行動を伴わなければ嘘になる」として、おんな(長野)、部落(高知)、沖縄に、志縁(地縁、血縁ではなく、志への共感)でつながる人々の交流の場を設け、常により痛み深く生きる人々の現場に身を置き、共に実践を重ねている。

 物事は、被害や実態を告発するだけではなく、なぜそうなったのかを突き止めねば、社会も自らをも変革することはできない。「なぜ戦争が起こるのか」「なぜ女は差別されるのか」、そもそも「なぜ差別が存在するのか」、根源を問うところから解放像は見えてくる、と。そして、「女が抑圧されるとき、また男も抑圧されている」とも。ものの見方、考え方の基本を鍛えてくれる一冊である。

 本書は、女性史研究家にとどまらず、詩人であり、思想家、求道者でもあるもろさわの全体像を描き出す。それは著者が、単に取材対象としてではなく、自らの痛みの解放像を求めて、もろさわに体当たりで食らいつき、自己変革する中から生まれた。もろさわさんも、身も心もさらけ出して応えている。

 97歳にして「私にはまだやりたいことがある。私の人生これからが本番よ!」と熱く語るもろさわさんに背筋を正される思いがする。

 (源啓美・元ラジオ沖縄プロデューサー)


 かわはら・ちはる 1982年横浜市生まれ、信濃毎日新聞記者。2013年文化部在籍時にもろさわようこさんと出会う。共著「認知症と長寿社会―笑顔のままで」で新聞協会賞など受賞。