【記者解説】「国への貢献」を強調 自治権の尊重姿勢どこへ 新たな沖縄振興基本方針案


社会
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内閣府(資料写真)

 国の新たな沖縄振興基本方針案は、序文で「領海、排他的経済水域等の保全など(中略)重要な役割」と明記するなど、「国への貢献」を求める姿勢をより強調した。1972年の復帰時から続く沖縄振興策に対する国民の幅広いコンセンサス(同意)が得られにくくなっていることが背景にある。新たに「エビデンス(科学的根拠)に基づく施策の展開・検証」の項目を設けるなど、県に対してより厳格な政策立案や自主財源の確保を求めている。

 沖縄戦で焦土と化した沖縄に対する本土側の「贖罪(しょくざい)の気持ち」から出発した沖縄振興の意義は、復帰から50年を経て新たな局面に入った。

 新たな基本方針策定の根拠となる改正沖縄振興特別措置法(改正沖振法)を3月末に成立させたのが、名護市辺野古の新基地問題で玉城デニー県政と相対する自公政権だったことも方針案に影響した。

 前基本方針を策定したのは「地方分権」を掲げた民主党政権だったこともあり、「沖縄の自主性を最大限に尊重」との文言が入っていたが、新たな基本方針では削除された。沖縄の自治権を尊重する姿勢は後退した。

 代わりに尖閣諸島の領有権を巡って対立する中国の台頭を念頭に領土保全の重要性を強調した。看板(意義付け)は安全保障環境を重視する方向に変質したと言える。

 今後は新基地建設問題と同様に、県政が政府の安全保障政策に協力するか否かで、沖縄振興の各種施策の進展に影響を及ぼす可能性も否定できない。沖縄振興の当初の理念からますます乖離(かいり)する恐れがある。

(梅田正覚)