市民所得の向上策やコロナ禍対策で議論白熱<WEB限定・発言詳報 沖縄市長選立候補予定者座談会(下)>


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沖縄市長選に向けて健闘を誓う現職の桑江朝千夫氏(左)と新人で前市議の森山政和氏=8日、沖縄市の琉球新報社中部支社(又吉康秀撮影)

 17日告示、24日投開票の沖縄市長選の立候補予定者を招いた8日の座談会では、現職の桑江朝千夫氏(66)=自民、公明推薦=と前市議で新人の森山政和氏(73)=共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし推薦=が、市民の暮らし向上やまちづくりなどで自らの政策を訴えた。米軍牧港補給地区倉庫群の米軍嘉手納弾薬庫知花地区への移設計画については立場の相違が浮き彫りとなった。クロス討論では事業予算の根拠や公約の進展状況について質問をぶつけ合い、白熱した議論が交わされた。議論での発言詳報を上・下に分けて公開する。(文中敬称略)

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貧困対策と所得向上

■Q 今選挙では貧困対策や市民所得の向上が両陣営で活発に議論されている。この解決に向けた施策は。また相手候補との手法や違いで、最も大きな点は。
 

森山氏「教育の格差解消に力」
桑江氏「新たな就業支援創設」

 

 森山氏 貧困対策として、「市民所得10%アップ」を実現する。沖縄市の市民所得は、年々悪化し、県内41市町村中で下から3番目だ。コロナ禍以前に街が疲弊している。貧困対策は喫緊の対策と、中長期的な対策が必要だ。喫緊の対策としては「みんなにやさしいまち」の実現のために、「人への投資」を進める。

森山政和(もりやま・まさかず) 1948年12月生まれ。宜野座村出身。武蔵野音大卒。沖縄市立越来中校長などを経て2010年から市議3期。出馬に伴い辞職。

 給食の無償化、18歳未満の医療費の無償化は計画的に実現する。貧困対策として、「市民所得10%アップ」を実現する。給食費の無償化の財源には、米軍基地内の固定資産税を補填する交付金14億円を財源に充てる。これは新たな基地受け入れによる防衛省の米軍再編交付金とは違い、本来受け取るべき固定資産税を補填するため総務省が出している交付金だ。

 ちなみに民間地域の固定資産税は82億円なので、沖縄市面積の34%を占める米軍基地からは、現在の3倍の交付金が配分されなければ見合わない。騒音が激しさを増す中、迷惑料の性格を帯びる交付金の増額を求めていく。

 他には、ひとり親家庭のケアと就労支援、若年層の就労支援、返済義務のない給付型奨学金の拡充、出産育児一時金の拡充、不妊治療の支援、男女賃金の格差の是正、ヤングケアラー支援などが喫緊の対策だ。これだけでは、貧困の「連鎖」は解決できない。そのため、中長期的には「教育の格差」を解決する。教育の格差が収入格差を生み出すからだ。

 解決のために、少人数学級の推進や学習支援員の増員を実現し、教育の質を高め、「教育格差」を解消する。中長期的に教育の格差の解消に取り組み、貧困問題を解決し、市民所得10%アップへと邁進する。以上の施策に基づいて、場当たり的な対策に終始せず、中長期的に教育の格差の解消に取り組めることが私の強みだ。貧困問題を解決し、市民所得10%アップへと邁進する。
 

 桑江氏 貧困対策については、連鎖を断ち切る仕組みを着実に前に進めていく。それが重要だ。子どもの居場所づくりをはじめ、生活困窮世帯の中学生無料塾の拡充や、若年妊産婦の居場所づくりなどは既に取り組んでいる。さらに充実させていく。

桑江朝千夫(くわえ・さちお) 1956年1月生まれ。沖縄市住吉出身。日本大卒。市議3期、県議2期を経て、2014年4月の市長選で初当選した。現在2期目。

 ひとり親世帯の学童利用料の補助や、資格取得を支援してきた。さらなる子どもの貧困対策をして、市内のあらゆる地域で子ども食堂が実施できるよう充実強化を図っていく。安心と自己肯定感が持てるよう、トワイライトステイ(夜間養護等)を実施していく。

 またひとり親家庭や若者の就業支援は、この貧困の連鎖を断ち切るために最も重要と注力していかないものだと私は位置付けている。

 これまでも就職に有利な資格の取得促進や一人一人に寄り添った就職マッチングなどを行ってきた。さらなる支援策としては、デジタルスキルに特化したきめ細やかな就業支援プログラムを実施して、取得したデジタルスキルを就職、転職につなげていくことも支援していきたい。

 特に沖縄産業開発青年協会等があるが、そこを利用する若者に対する助成金を創設し、そこで腕に技術を付けることができる。そして介護職員初任者研修の受講費用の支援などをして、資格取得によって自らの給与アップができる、そういった助成も支援していく。そして令和2年度に創設した給付型奨学金をさらに拡充する。

 森山候補との違いだが、相当に自分の街を悲観しているようで、所得の向上について話をし、所得が低いと言っているが、これをよく見ると、東門市政は05年から13年だ。そのときにマイナス4%も下がっている。そして翌14年に私は市長に就任した。この18年までに9%上がっている。どこを基準にして10%上げると言うのか。18年度、20度を基準として上げるのか。もう既に9%は上がっている。
 


コロナ対策

■Q 新型コロナウイルス感染症問題が、公衆衛生の面でも、経済の面でも市民生活に大きな打撃を与えた。感染対策や医療体制の確保、またコロナ後の経済再生に向けた対応は。
 

桑江氏「魅力創出で投資呼ぶ」
森山氏「観光収入を取り込む」 

 桑江氏 本市の新型コロナウイルス感染症への対応については、これまで保育所、幼稚園、学童クラブ、小中学校、自治会、介護サービス事業所や障がいサービス事業所、飲食店など、多くの人に対して感染予防対策を図るとともに、支援補助を行ってきた。

 また感染予防対策の一環として、濃厚接触者などを宿泊施設で隔離するための宿泊費用の支援、市内の無料PCR検査場を設置して市民が検査を受けやすい環境も整備している。引き続き、本市の実情に沿った対策を進めるとともに感染拡大防止および、重症化予防の観点から新型コロナウイルスのワクチン2回接種が完了した方を対象とした追加接種について受け入れに取り組んでいかなければならないと考えている。

 医療体制については、県から要請を受けて、入院待機ステーションの設置場所の提供を行った。当時逼迫(ひっぱく)していた医療体制の確保に対応した。今後も県や医師会等と連携をしながら、市ができる対応はしっかりと協力していきたい。

 経済対策だが、8弾にわたって経済対策を行ってきた。これは地域経済の再生復活、さらに前進させていくための地域の魅力を高めて沖縄市に投資したくなる環境作りが重要だ。コロナで疲弊した2年間だが、しかしコロナの中でも沖縄アリーナが実質的に経済効果を生み出している。繰り返しになるが、沖縄市に進出したホテルが3棟、さらにもう1棟できる。そこはアリーナ、こどもの国、沖縄市がポテンシャルを上げてきた証拠ではないか。

 そして大先輩たちが夢見てきた沖縄市のリゾート地、東海岸でも観光経済に応える施設をつくる東部海浜開発事業が「潮乃森」だ。そしてFIBAバスケットボールワールドカップが来年行われる。そこで沖縄が世界に認知される日本の中のリゾート地沖縄として認知されるチャンスだ。その旗振り役を私がやりたいし、そして県民挙げて2023W杯の成功に導きたい。
 

 森山氏 感染対策や医療体制の確保については、PCR検査の拡充やワクチン接種の推進を市の施策として、沖縄県と連携してスピード感を持って取り組む。

 現在のコロナ支援策は市民からは分かりづらいと言われている。個人や企業への各種支援策への相談をワンストップで行う、新型コロナ総合相談窓口を設置する。またダメージを受けた企業と働く場所を守るため、市独自の支援を行う。

 経済再生へ向けた取り組みとしては、一人当たり市民所得の10%以上アップを目指す。コロナ禍以前から、沖縄市の経済は低迷していた。主な原因としては、働く場所不足、失業率の高さ、偏りのある産業構造、観光収入が取り込めていないなど、様々な要因がある。私は議員時代、人づくり、地域づくり、仕事づくりをモットーに、沖縄市の発展のために仕事をしてきた。

 人への投資を最大限に実施し、市民所得向上を実現する。それに向けて人材育成に力を入れる。小中学校給食費の完全無償化、 18歳までの医療費無償化など、子育て支援策を充実させる。

 空き家のオフィス利用やワーケーションへの活用を推進し、支援を総括する「ビジネスサポート課」を新設し、企業と行政の連携を図る。県の新振計によると、好調に推移する観光産業が県経済を牽引し、県民所得は上昇していくとされている。しかし、現在、観光収入を十分に取り込めていない沖縄市では、県全体の流れに乗り遅れる恐れがある。

 今、沖縄市は観光収入を取り込む仕組みづくりが求められている。音楽、芸能、文化を活用した「音楽のまちづくり」で、観光客を呼び込む。本格的なスポーツコンベンションにも取り組む。広島カープのキャンプ地で、キングス、 FC琉球が沖縄市をホームタウンにしている。

 沖縄市はコザ運動公園、県総合運動公園もあり、スポーツをビジネス化できる条件が整っている。10%以上の一人当たり市民所得アップは最低限の政策目標であり、任期中に必ず達成させ、沖縄市の経済振興を図る。
 


クロス討論

桑江氏「所得向上の施策は?」→稼ぐ力育てる 森山氏
森山氏「サーキット実現は?」→企業誘致図る 桑江氏

 桑江氏Q 市民所得10パーセント増についての公約について比較するのがどのあたりなのかで違うが、東門前市政の時は8年でマイナス4%落ちている。14年からは市長になって5年間で9%アップしている。すでにこのような経済効果現れているが、それ以上にアップする施策を教えてほしい。

 森山氏A 沖縄県が22年度から新沖縄振興計画で所得が(年に)平均2・1%上昇すると予測している。私が任期4年間だと8%は増えることになるが、現在、観光収入の水準が低い沖縄市では、県全体の流れに乗り遅れる恐れがある。

 沖縄市は1人当たり市民所得が200万3千円だ。10%アップは控えめな数値だが、しかし現在の沖縄市では控えめな目標すら成できない可能性がある。10%アップは最低限の政策目標だ。必ず達成させる。

 そのために第一次産業を支援し充実させ、6次産業へとつないでいく。人材育成により生産性の高い職場を多く作り、稼ぐ力を育て、自立経済へと結びつけることが所得向上10%につながる。こういった政策を力強く推し進めて、10%と言わず、それ以上の所得向上を目指したい。
 

 森山氏Q 市民所得の低迷について。沖縄市は市民所得が減少し、41市町村中39位。下から3番目だ。沖縄市の貧困問題は、子どもの貧困、独居老人の孤独死などさまざまな問題を生じさせている。その原因は。

 桑江氏A この市民所得という部分の算出の仕方だが、企業所得がある。浦添市がなぜ高いかというと沖縄電力があり、大企業があるから。そういった企業が多いからだ。沖縄市は個人事業主が多く、そして人口が2番目だ。個人所得、給与を合算したのを人口で割るわけなので小さくなる。

 とはいえ、私は就任当初から5年間でその市民所得を9%も上げることができた。これは「アリーナ構想」が功を奏して、企業が進出してきた。観光経済になっていないと言うが、滞在型の観光を目指し、3棟のホテルがここに進出してきた。大きなことだ。

 そして「スタートアップラボ・ラグーン」で創業支援をし、若者の相当な創業起業に貢献してきた。定住というか、IT関係の頭脳もこの沖縄市に来ている。

 そういったもろもろのことをさらに進めていくことで充実感と満足感が得られる「働いて楽しい沖縄市」をさらに進めていくことが重要だと思っている。
 

 桑江氏Q コザ十字路のバス構想で森山氏の話を聞くと、以前の桑江朝幸2代目市長の構想を復活させると言っていた。だがその計画は森山前議員の先輩たちが反対し、それができず、桑江元市長はこの構想を断念した。これを復活させるということが矛盾に感じてならない。

 そしてLRTを導入するということ、県の調査では1キロ63億円から80億円かかるというものを、森山さんは1キロ30億円でできると言っていた。そして、沖縄アリーナが170億円かかっているから、10キロぐらいすぐ確保できるだろうと言うが、そんなに簡単に財源持ってこられるのか。

 森山氏A LRTの財源だが、私の調査では費用は1キロ30億円だ。今、1キロ60億円と言うことだが、これはおそらくモノレールの費用ではないか。30億で1キロ。ですから10キロで300億だ。

 財源については、国の(鉄道整備に関する)補助率が10分の9・5だ。なので財源はしっかり確保できる。

 それと桑江朝幸さんが「二眼レフ構想」といって、コザ十字路でリニアバスターミナルの整備を主張していた。その構想を参考にすれば、現在の道路、国道拡幅需要についても、一路線増やすだけで交通拠点になる実現性が高い構想になると思う。私が桑江朝幸さんの夢を実現させたいと思っている。

 森山氏Q モータースポーツマルチフィールドは本格的サーキット場を建設するための機運醸成が目的だったはずだ。そのために沖縄市はマルチフィールドに単費で7億円もの予算を投じた。

 8年前の選挙公約だった本格的サーキットはいつまでに、どの場所で、どの規模で建設を予定しているのか。そろそろ概要説明ができなければ、7億円を投じた根拠と妥当性が疑われる。

 マルチフィールド周辺で営農する農家さんから騒音の苦情がある。だからこそ、本格的サーキット場の建設場所や規模は地域住民にとって大変大事な情報だ。
 

 桑江氏A 場所についてはまだ調査中なので申し上げられない。火葬場建設を公約に掲げられている森山さんにも分かるとおり、こういった場所を先に決定すると、悪い影響が出てくる。そこは「まだ調査中」と答えていく。

 このマルチフィールド沖縄は、本格的サーキット場建設のための機運醸成のための施設でもある。これはまだ進行中だ。この施設ができてから、多くのモータースポーツの魅力に取り付かれたというか、魅力を発し、多くのファンができている。

 そこだけじゃなくて、今度はここに企業誘致を図っていくことが目的だ。そこを成就していく段階だ。そこが大きな発展を遂げていくことになると、次には、本格的サーキットに向かっていける要素になる。

 今、このマルチフィールド沖縄が県警との協力関係にもある。そして大きな企業、トヨタでありますとか、ホンダ、そしてブリジストン、タイヤメーカー、ボールベアリングのメーカー、いろいろな自動車関連産業がここでテスト走行し、あるいは試乗会を開いている。

 こういったところから進歩していって企業誘致をし、そして第3次産業ばかりではなく、この沖縄にものづくり産業が誘致できるような準工業地帯にそこを誘致ができればと考えている。
 


有権者に訴え

■Q 最後に、お二人から「こんな沖縄市をつくりたい」という思いをフリップボードに書いてもらい、有権者への訴えを。

森山氏「人への投資で所得10%アップ」

 最も訴えたいのは。人に優しい街づくりだ。人への投資に意欲的に取り組むことだ。貧困問題、経済政策に対して市民所得10%アップの実現を目標に掲げ、意欲的に取り組む。

沖縄市への思いを書き込んだボードを手にする森山氏

 残念ながら沖縄市の市民所得は県内41市町村中下から3番目だ。これは福祉政策の遅れ、経済活動の低下などの結果だ。これまでの市政では市民所得の深刻な状況から目を背けてきた。これが子どもの貧困問題に表れている。私は教育現場でそれをまざまざとそれを見せつけられた。

 大きな箱物の成功も、小さな再開発も、貧困対策も、子育て政策も、ばらばらに行うのではなく、人にやさしい街づくりのために市民所得10%アップを実現するために、各施策を掛け合わせていく。目標の「市民所得10%アップ」を必ず成し遂げ、人にやさしいまちづくりを実現します。

 これに加えて市民参加のまちづくりが大切だ。私のライフワークは音楽だ。市民参加のアリーナでの1万人の第九演奏会を成功させるなど、音楽によるまちづくりを提唱する。

 沖縄市のさまざまな音楽の力を結集した、市民による市民のための音楽祭も成功させたい。市民のハーモニーがまちづくりの原点です。若者を中心に政策を公募しており、50以上の政策が集まっている。こういった声は宝だ。近日中に新たな政策を公表する。
 

桑江氏「躍動する沖縄市、安心できる沖縄市、ワクワクする沖縄市」

 躍動する沖縄市。スポーツコンベンションシティーの沖縄市だ。沖縄アリーナが完成し、まさしくそこでキングスが今強さを誇っている。そこにバスケットボールのワールドカップが2023年に開催される。

沖縄市への思いを書き込んだボードを手にする桑江氏

 そしてサッカー場、沖縄県総合運動公園では、FC琉球がホームタウンとして活躍している。ホテルも建ちそろい始め、そして中心市街地ががらっとかわり、バスターミナルができていく。まさしく躍動する沖縄市だ。

 次に安心できる沖縄市。自然災害、台風や地震、津波に強い沖縄市を構築する。消防団員を強化し、自助共助の連立をしっかり構築する。

 だれもが平等に暮らせる、貧困の連鎖を断ち切り、平等に暮らせる安心できる街にしていく。

 そしてこどもの国、潮乃森、沖縄アリーナ、さまざまな部分でこの沖縄市をワクワクする沖縄市にし、県民、そして県外の方、世界の方がワクワクする沖縄市に構築していきたいと考えている。
 


<出席者>

桑江朝千夫氏(66)=現職、自民、公明推薦

森山政和氏(73)=新人・前市議、共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし推薦

 司会 島袋良太(琉球新報・中部報道グループ長)

<(上)旧コザ市地区の活性化どうする?都市計画で違い鮮明>はこちら

('22沖縄市長選取材班まとめ)