「コロナ禍だからこそ読んでほしい」ハンセン病への差別、連鎖を絶つ 市民学会、元患者や家族の経験や学びを書籍に


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「多くの人に読んでほしい」と呼び掛ける沖縄愛楽園交流会館学芸員の鈴木陽子さん=5日、名護市済井出の沖縄愛楽園

 「コロナ禍の今だからこそ、ハンセン病問題と元患者の人生を知ってほしい」。ハンセン病問題の全面解決を目指す「ハンセン病市民学会」の教育部会はこのほど、「ハンセン病問題から学び、伝える」を発刊した。元患者やその家族との交流を通して得た経験や学びをまとめた。新型コロナウイルスの感染が拡大する中で「感染症差別」を再び社会にまん延させないためにも、同問題を学び「心の中に人権のとりでを築く」ことが他者を尊重し共に生きる社会につながると訴える。

 ハンセン病市民学会は「差別の連鎖を絶つ」をテーマに2005年5月に発足した。「交流」「提言」「検証」を取り組みの三本柱に活動を続ける。全国の弁護士や研究者、民間支援グループ員らさまざまな市民が所属する。県内からも名護市の沖縄愛楽園交流会館学芸員、宮古島市の宮古南静園支援員らが参加している。

 「ハンセン病問題から学び、伝える」は全11章からなる。全国13の療養所での元患者らとの出会いや人権学習の実践例に加えて、共に原告勝訴した国賠訴訟(01年)と家族訴訟(19年)の意義、全国の学会員が捉える社会教育と市民、地域が果たす役割への考察がつづられる。

 新型コロナの拡大の中で、感染への不安や恐怖から感染者やその家族、医療従事者への中傷などの「感染症差別」が生まれている現状に「ハンセン病問題における教訓を国、市民が十分に生かせていない」との課題も提起する。

 第一章を執筆したハンセン病市民学会教育部会世話人の延和聰さんは本の中で、ハンセン病人権学習を「病気の正しい理解や被害を知ることだけにとどめてはならない」と指摘する。「人権侵害を目の前にした時、知識だけではほとんど無力であろう。だから心の中に人権のとりで(偏見差別を見抜く目)とそれに対してノーと言える感性を育む必要がある」とつづった。

 執筆者の一人、愛楽園交流会館学芸員の鈴木陽子さんは「コロナ禍の今だからこそ、地域の中で(ハンセン病)回復者や家族がどのように暮らしてきたのかを知ってほしい。彼らの生きてきた姿や思いから学び、伝えることが差別のない社会につながる」と訴えた。

 「ハンセン病問題から学び、伝える」(税別2300円)の問い合わせは同館(電話)0980(52)8453。
 (佐野真慈)