<書評>『ドキュメント〈アメリカ世〉の沖縄』 日・米・琉の視点から考察


社会
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『ドキュメント〈アメリカ世(ゆー)〉の沖縄』宮城修著 岩波書店・1078円

 本書は悲惨な沖縄戦の後、米軍によって占領された1945年から1972年までの27年にわたる体系的な沖縄戦後史である。〈アメリカ世〉の沖縄(琉球)を、日本、米国、沖縄の3視点から主要な出来事を独自の構成で考察し、日本に復帰して半世紀になる沖縄のこれからの進路についても深く考えさせられる内容になっている。日本の戦後史から抜け落ちたもうひとつの戦後史を知る上で最適な書といえよう。

 何よりも戦後日本の平和と経済発展は、米国統治下の沖縄の過酷な犠牲の上に築かれたことが本書を読めばよくわかる。この27年間に日本本土の米軍基地は減少した一方で、狭隘(きょうあい)な沖縄島の米軍基地は拡大し、核兵器の持ち込みも黙認させられた。辺野古弾薬庫等には1300発もの核兵器が貯蔵されていて、戦慄(せんりつ)するような核ミサイルの事故も起こった。著者は指摘する、「日本が『栄えてきた』のは、日本から切り離した沖縄に配備された米軍の『核の傘』で守られながら、高度経済成長を実現したからではなかったか」と。

 米軍の弾圧や悲惨な事件事故に耐え、沖縄の人々は土地の強制収用に抵抗し、「沖縄の自治は神話だ」と言い放つ高等弁務官に対して人権や自治を求めて戦った。そして行政主席の公選を勝ち取った。それらの戦いが民主主義と人権を保障する平和憲法をめざす復帰運動につながった。

 〈アメリカ世〉を終わらせた最大の要因は、沖縄の人々の民意であると著者は言う。そして「日本に復帰して平和の島に戻りたい」という当時の沖縄の民意は〈大和世〉になっても受け継がれている。県知事選、国政選挙、県民投票、司法への提訴など、民主主義の手続きを駆使して民意に反する辺野古新基地建設に抵抗している。

 かつて「復帰措置に関する建議書」で屋良朝苗主席は、「従来の沖縄はあまりにも国家権力や基地権力の犠牲となり手段となって利用され過ぎてきました」と訴えた。だがいまなお沖縄は米中日の3カ国のはざまで戦争の脅威にさらされている。その理由を知る手がかりを本書は提供している。

(江上能義・琉球大/早稲田大名誉教授)


 みやぎ・おさむ 1963年沖縄県生まれ、琉球新報社論説委員長。本紙で「戦後政治に生きて 西銘順治日記」「不屈 瀬長亀次郎日記」「一条の光 屋良朝苗日記」の編集・解説を手がける。