![](https://ryukyushimpo.jp/tachyon/legacy/002/202204/RS20220422G00921010100.jpg)
自衛隊の沖縄配備当時、県内では隊員の受け入れを巡る混乱が起きていた。成人式への参加阻止、住民登録拒否、貸家拒否…。沖縄戦の記憶が残る中、戦時中に住民を苦しめた「日本軍」と自衛隊を同一視する向きは強く、隊員に対する拒絶反応となって現れた。
復帰運動を主導していた沖教組(県教職員組合)は自衛隊配備に反対する立場を取っていた。隊員の住民登録拒否であおりを受けたのは隊員の子どもら。住民票が取れず、入学が宙に浮いた。
当時、小禄小学校に勤めていた新崎侑子さん(90)。校区内には入学を控える隊員の子どもがいた。組合は中部を中心に反自衛隊を強く打ち出していたが、那覇支部婦人部長だった新崎さんは「すべての子は教育を受ける権利がある」と主張した。「自衛隊に賛成なのか」と組合内で追及されたが「そうではない。分けて考えるべきだ」と反論した。
隊員の子の入学が認められ、新崎さんは母親に「教育を受ける権利は同じ」と語り掛けた。拒否反応を覚悟していたのか、母親は「優しい言葉を掛けられるなんて夢にも思わなかった」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
復帰前に求めたのは米軍の圧政から逃れ、日本国憲法の下に帰ることだった。新崎さんは復帰と同日に発行されたポケットサイズの「憲法手帳」を購入し、同僚に配った。「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならない」と定めた教育基本法も掲載されていた。
![](https://ryukyushimpo.jp/tachyon/legacy/002/202204/1b8220dce603690d2ac9f70fcf5589c4.jpg)
新崎さんは子どもの教育を受ける権利を守った。ただ、復帰後も米軍基地が残り、自衛隊の配備強化が進む現状には疑問を抱く。「教育の現場には、複雑な社会情勢が現れる。だからこそ考え続けないと」。復帰時に手に入れた憲法手帳を今も肌身離さず持ち歩き、複雑に入り組む沖縄と自衛隊の関係に思いを巡らせる。
「小禄九条の会」はコロナ禍で中断していた高校の前でのスタンディングを3年ぶりに始めた。19日、小禄高校前では戦争に反対する手作りのプラカードを持って呼び掛けた。生徒が足を止めて話し込む姿もあった。会は集団的自衛権の行使容認に反対し、自衛隊の役割を改めて若い世代に考えてほしいと訴えている。
代表世話人の平良亀之介さん(85)には忘れられない出来事がある。数年前、ある高校前で署名活動をしていた際、じっと遠くから見ていた女子高生がいた。「署名をしていいですか」。生徒は青ざめ、深刻な様子で「父が自衛隊です」と打ち明けたという。
平良さんは「目が覚めた。自衛隊も憲法9条の下で守られている。それが戦争に参加することになれば、むしろ家族にとって深刻な問題なんだ、と気づいた」と話す。憲法9条を背景に他国で殺害や破壊するのではなく、人命救助や社会再建に貢献してきた自衛隊。平良さんは、その役割の変化による隊員や家族への影響もおもんぱかる。 (稲福政俊、中村万里子)
![](https://ryukyushimpo.jp/tachyon/legacy/002/202204/RS20220422G00962010100.jpg)