新型コロナの感染者数が高止まりしている中、世間では社会活動が活発化しつつある。こうした現状にギャップを感じているのが高齢者施設の現場だ。利用者の行動制限に加え、職員も感染対策に神経をすり減らす日々が続く。うるま市で民間の小規模認知症グループホームを運営する前泊忍代表は「介護現場の努力を想像し、流行を終わらせるためにも県民全体で感染対策を徹底してほしい」と訴える。
うるま市塩屋のグループホームかえでテラス。ベランダで鼻歌を歌いながら「マーカイガ(どこいくの)」と話し掛けてきたり、室内から窓越しに笑顔で手を振ったりする高齢者は皆、認知症だ。感染対策への協力は難しいため、新型コロナ流行以降、利用者の外出や家族の面会を制限し、施設内感染を防いできた。刺激の少ない生活で利用者の認知症が進む不安もあるが、一人でも感染すればクラスター(感染者集団)は避けられないため、リスク管理が最優先だ。
こうした日常に、前泊代表は「業務への責任感とともに、施設の負担も大きくなる」と語る。
県認知症グループホーム協会によると加盟する75施設中、半数が法人以外の民間会社だ。小規模のため感染対策に必要な備品購入の負担感も大きい。医療用手袋はコロナ禍以前より値段も上がっているため、前泊代表は「運営状態が厳しい施設も多く行政からの財政的支援が必要だ」と訴える。
流行から2年が過ぎ、行政は感染対策とともに、経済活動の維持も重視している。しかし、県内の社会福祉施設では施設内療養者が200人を超えており、感染対策を緩めることはできない。
5月には大型連休が控えている。観光客も増え、街がにぎやかになる一方で、入居型の介護現場は“籠城”のような体制を取らざるを得ない。「世間ではさまざまなイベントが開催され、日常が戻りつつあるが、介護現場はいつ収束を迎えるのだろうか」。ゴールの見えない日々に、前泊代表から徒労感が口をついた。
(嘉陽拓也)