教科書の挿絵が変わっている…政治の「浸食」でゆがむ現場 映画「教育と愛国」沖縄でも公開


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渡嘉敷島の強制集団死の証言も反映させ映画「教育と愛国」を完成させた毎日放送の斉加尚代さん=東京都内

 【東京】危うさに気づいたのは、教科書に載った挿し絵の変化だった。パン屋が和菓子店に差し替えられた。学校で使われる教科書に政治が急接近し「侵食」を始めている。そんな問題意識からテレビドキュメンタリーの番組に追加取材を加え、映画「教育と愛国」をつくり上げた。監督で毎日放送の斉加尚代さんは、ゆがむ教育現場のリアルを伝え「教科書は誰のものか」を問う。

 和菓子店に差し替えられた教科書は小学校の道徳だった。2017年3月のことだ。伏線は06年の教育基本法の改正にあり、「愛国心」が盛り込まれたことがひも付いていると感じたと言う。「道徳と歴史の教科書では違うのだろうが、沖縄の集団自決の軍命削除をさせた教科書検定とつながっているのでは」。通底する政治圧力の意図を嗅ぎ取った。映画には渡嘉敷島の集団自決(強制集団死)を語り継ぐ吉川嘉勝さんの証言も反映された。

 パン屋の問題について文部科学省に問うと「検定意見はつけたが、パン屋をなくせとは言っていない。教科書会社側が自主的に差し替えた、との返答があった」。政治に忖度(そんたく)し“大人の事情”を優先させる教科書会社の姿勢が浮かび上がった。

 教科書記述の内容は縮小、矮小(わいしょう)化され、併せて政治主導で教育行政の独立が土台から掘り崩されていく状況を問題視した。「コロナ禍で安倍晋三元首相が文科省の頭越しに一斉休校を決めたり、大阪市の松井一郎市長が教育委員会に相談せずにオンラインの授業を決めたり、深刻化する事態に問題意識を持った」。その後の教育を巡る問題も重なり「映画づくりが人生最大のトップギアに入った」と話す。

 映画は教育現場をむしばみ、萎縮させる元凶に迫り、教科書を取り巻く、よどんだ空気感の正体をあらわにする。斉加さんは「歴史をどう伝えるのかは将来の社会を築く上で、とても大事なこと。戦争の加害の歴史に目を背けてはまた同じことを繰り返すことになりかねない。歴史を直視する機会になれば」と話す。
 (斎藤学)


県内28日から上映

 映画は28日から那覇市内の桜坂劇場で公開予定。29日には沖縄市のシアタードーナツで先行公開と斉加監督のトークイベントもある。また「何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から」(集英社新書)も出版され、那覇市内のジュンク堂書店で8日午後3時から三上智恵監督とのトークイベントも開催される。