〈106〉救急医療と延命治療 答えることが難しい質問


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 仕事柄、患者さんやご家族から「それは延命治療ですか?」と聞かれることがよくあります。救急車で病院へ運ばれて、人工呼吸器を着けないと命をつなげない、といった場合です。

 「延命治療ですか?」という問いはおそらく、「一生その治療が必要なのか?」あるいは「意識が戻らないまま、ただ心臓を動かすためだけにその治療を続けるのか?」といった意味だと思います。そのような質問の裏には「延命治療ならば受けたくない」という患者さん自身やそのご家族の思いが見て取れます。

 この質問にわれわれ医療者が正確に答えるのは実はとても難しいことです。なぜなら、人工呼吸器を着ける時点では、果たしてそれが必要なくなる時がやってくるのかはわれわれにも分からないからです。

 治療がうまく行けば人工呼吸器を外すことができるし、そうでなければ一生機械の世話になりっ放しということもあり得ます。われわれに言えるのは、その治療が「結果的に延命治療になる可能性がある」ということだけなのです。

 ただ、現場ではその説明はしばしば簡略化され、回復の見込みがある程度大きければ「延命治療ではない」ということにされ、逆にその見込みが極めて薄い時には「延命治療です」という返答になります。この「見込みの大きさ」も、医師の経験や技量に依存する部分があり一概に言えないのが現実です。

 「結果的に延命治療になるかもしれませんがどうしますか?」医師からのこの問いに対し、患者さん側が即座に答えを出すことはさらに難しいでしょう。延命治療になるかもしれず、体への負担も大きい治療を選択するかどうかは、その人の生命観、体力、残された人生、家族といったさまざまな要因に左右されます。

 しかしこの質問は多くの場合、事態が急を要する場面でなされ、患者さん側は熟慮する時間を与えられないまま重大な選択を迫られます。

 われわれもその場でできる限りの情報を患者さんやそのご家族と共有し、患者さんにとって最善の選択がなされるよう努めてはいますが、何年現場を経験しても容易なことではありません。

(松本敬、中頭病院 集中治療科)