<書評>『現代沖縄文学史』 文学研究に進むためのレール


社会
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『現代沖縄文学史』落合貞夫著 ボーダーインク・1980円

 本書は、明治期から現代まで、およそ110年にわたって集積された〈沖縄文学〉の領域から60作品を精選し、概要と解説を記したブックガイドとして捉えることができる。〈沖縄文学〉の流れを押さえるために不可欠な作品が選び抜かれた目次は、眺めるだけでも心楽しい。

 本書に触れて、1910年代から2000年代までを10年ごとに区分けし、文学者と作品を論じた仲程昌徳『沖縄文学の一〇〇年』(ボーダーインク)を想起する読者もいるかもしれない。『沖縄文学の一〇〇年』と本書の大きな違いは、対象から韻文を除き、小説やノンフィクション、エッセーなどの散文に絞っていること、沖縄県外の作家たちの作品を取り入れたことであろう。

 著者は、「狭く言えば、沖縄文学とは、沖縄出身の作家が、沖縄を題材にして書いたものと限定できる。しかし、私は「原爆文学」「キリスト教文学」「ポストモダン文学」といった定義があるように、沖縄の歴史や民俗、沖縄戦、米軍支配などを題材にした文学を、その作家の出自を問わず、沖縄文学として位置づけたい。そういう立場から、この著には沖縄をテーマにした本土や外国出身の作家たちを登場させている」(「まえがき 序章にかえて」)という。

 この定義に従い、70年代に発表された曽野綾子「生贄の島 沖縄女生徒の記録」や大江健三郎「沖縄ノート」などの沖縄に対する当時の本土知識人のまなざしを顕在化させたテクストや、近年注目された真藤順丈「宝島」、高山羽根子「首里の馬」、李琴峰「彼岸花が咲く島」なども〈沖縄文学〉の領域に呼び込まれることとなった。そのような著者の選択は、結果的に〈沖縄〉を結節点とする文学的表現がいかなるかたちで構築されてきたかを多角的に照射する効果を上げている。

 また、各作品に付された解説は、短いながらも的確なもので、作家本人の言葉や、岡本恵徳、仲程昌徳、新城郁夫らの先行研究を踏まえている。読者の読みを導くための心強い指標となり、より詳細な文学研究に進むためのレールともなってくれるはずである。

 (村上陽子・沖縄国際大教授)


 おちあい・さだお 1954年香川県生まれ。著書に「讃岐の文学案内」「『悪』とたたかう村上春樹 全長編を読みほどく十四章」など。