<書評>『魚毒植物』 琉球列島の失われた伝統漁法


社会
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『魚毒植物』盛口満著 南方新社・3080円

 毒を流して魚を捕獲する漁がある。聞いただけではなんとも極悪非道な漁法に感じるかもしれない。しかし毒性のある植物をすりつぶして川に流す漁法は「魚毒漁」と呼び、原始的な漁法の一つとして世界的に類例が知られている。一般的に「破壊的」なので、魚がいなくならないようさまざまなルールを課して慎重に行われてきた漁法でもある。実はこの魚毒漁は、琉球列島においても連綿と行われてきた伝統的な漁法の一つである。本書はそんな魚毒漁について、特に用いられる植物種に焦点をあてて、日本本土と琉球列島における事例を解説した興味深い一冊である。

 本書を読んで、琉球列島における代表的な魚毒植物がイジュであったこと、35種もの植物が利用されてきたこと、島ごとに異なる多様性の高い魚毒漁文化が存在したこと、河川でも水田でも海でも行われていたことなどを知ることができた。中でも本書の要は、第4章にあると感じた。著者が聞き取りを行った魚毒漁の生の声は迫力があり、話者が実際に体験したかつての魚毒漁の様子を生き生きと読者に伝えている。これら一つ一つの事例は、体験した話者がこの世を去れば二度と得られない。学術的にもきわめて貴重なものである。

 現在、魚毒漁は国内では完全に過去の漁法となっている。法令により禁止漁法の一つとなっていることが理由であり、この漁法の破壊的な側面を考えればやむを得ないだろう。しかし、本書でも指摘されている通り、琉球列島では近代化による共同体の変質と強毒性の化学物質の登場、それらを要因とする資源の枯渇がその持続を困難にしたことは見過ごすべきではない。かつてのように川や海に魚がいなくなり、われわれと魚たちとの距離が決定的に離れてしまったのである。

 過去に戻るのが良いというつもりはないが、せめて、かつてのような川や海を取り戻し、魚たちとの距離感を取り戻すことはできないだろうか。本書を通して考えるべきことは多い。

(中島淳・福岡県保健環境研究所専門研究員)


 もりぐち・みつる 1962年千葉県生まれ、沖縄大前学長。著書に「琉球列島の里山誌」「ゲッチョセンセのおもしろ植物学」「歌うキノコ」など多数。