健康保険のデジタル化 防疫もマスクも情報統合<台湾のコロナ対策>上


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
陳時中氏

 台湾は新型コロナウイルス対策の先進地域といわれる。隣接する沖縄はじめ日本はどのような点を学べるか。対策が成功している理由や今後の課題などについて、陳時中・台湾衛生福利部長と王瑞豊・台北駐日経済文化代表処那覇分処処長に寄稿してもらった。
    ◇    ◇ 
 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の世界的パンデミック発生から2年余りがたち、これまでに全世界の5億1千万人が感染し、625万人以上の大切な命が失われた。各国がパンデミックへの対処に難儀していたとき、台湾の防疫対策は国際的に注目され、高く評価された。人口2350万人の台湾は、2022年5月10日までの時点で、感染者数約39万例、死者数931例である。21年の経済成長率は6・45%に達し、これらは台湾の官民が共に努力し、創出した経済的成果だといえる。

 台湾の全民健康保険は、新型コロナの防疫において極めて大きな役割を果たした。台湾は1995年に全民健康保険制度を開始して27年がたった。全民健康保険は包括的かつ高品質な健康サービスを提供するのみならず、健康保険のカバー率は99・9%に達し、その名の通り全国民の健康をカバーしている。台湾の完備された公衆衛生システムと全民健康保険制度は、人々に安心の保障と社会の安定を提供する後ろ盾となっている。

 全民健康保険の整ったデータベースと時代とともに進化した情報システムに加え、台湾がデジタルテクノロジーの応用に成功したことも重要な鍵となっている。世界の指標データベースサイト「NUMBEO」が発表した2021年の「ヘルスケア・インデックス」によると、台湾は95カ国中トップとなった。台湾のヘルスケアシステムは、米ビジネス誌「CEOワールド・マガジン」において21年度世界第2位にランキングされている。

 20年2月、新型コロナのパンデミックが始まった初期の段階では、コミュニティーにおける伝染リスクを抑えるため、台湾政府は「入国検疫システム」を構築し、全民健康保険データベースと移民署(入国管理局に相当)および税関のデータベースを統合し、ビッグデータによる解析を行えるようにし、「デジタル隔離追跡システム」により、スマートフォンの位置情報の追跡を通して、在宅隔離および検疫措置を確実に実行できるようにした。また個人情報を保護するため、これらの個人情報は最長で28日間保管され、疫学調査に使用後には確実に消去された。

 マスク需要が急増した際には、健康保険カードをマスク購入権証明として運用する「マスク実名制」を採り、マスク買い占めによる需給バランスが崩れることを防ぎ、全ての住民にマスクが行き届くようにした。「NHI MediCloud」(健康保険医療情報クラウド検索システム)は、個人情報を守る前提の下で、受診者の旅行歴および接触歴を調べることができる機能を追加することにより、最前線の医療スタッフの疾病リスクおよび関連感染コントロール措置の判断に寄与し、効果的に患者の医療情報を統合できた。

健康保険証

 健康保険サービスのデジタル化を発展させるため、台湾は全民健康保険「快易通」アプリを開発し、ワクチン接種の予約、個人健康データ、受診記録、COVID―19ワクチン接種/ウイルス検査結果問い合わせ機能などを提供している。台湾は21年末に「EU(欧州連合)デジタルCOVID証明書」システムに正式加入し、国民による「ワクチン接種デジタル証明」や「検査結果デジタル証明」の申請を受け付けている。

 EUデジタルCOVID証明は国際的標準の一つとなっており、加盟国も多く、なおかつ国際間の旅行に使用されており、台湾の国民はこの証明を持参すればEU加盟国など64カ国に入国することができる。

 台湾は10年より電子カルテ交換などの医療情報インフラ建設を積極的に推進し、21年5月より、台湾政府はリモート医療を全民健康保険の給付対象に組み入れ、リモート診療を拡大することにより、ゼロ接触医療を通して感染および密集のリスクを減らした。医療スタッフも「NHI MediCloud」と電子カルテ(EMR)システムを使用することにより、患者の診療記録を取得できるようになった。

 リモート医療の拡大は、ヘルスケアサービスのカバーを拡大するものであり、これにより交通が不便な地方の住民も適切に十分な医療ケアを受けることができるようになり、世界保健機関(WHO)が目標とするユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実践となった。