ストリートアートがバンクシーの手によるものなのかどうかは結局、分からないまま。ただ「バンクシー現象」とも言える状況は、グラフィティ(落書き)がアートなのか、それとも物を汚す軽犯罪か、見る側に問い掛けている。
県内で見つかったバンクシー風の作品について、グラフィティに取り組む那覇市の40代男性は「個人的にはバンクシーではないなと思う。バンクシーにしては社会的メッセージがなさ過ぎるし、あったとしても分かりにくい」と意思表示や世相を風刺するメッセージが読み取りづらいとの見方を示した。同時にバンクシーや類似の作品だけが騒がれる状況は「ダブスタ(ダブルスタンダード=二重基準)過ぎる」とも指摘する。
2021年8月12日付の本紙。国頭村の林道沿いの壁面に描かれたネコの絵が見つかったという記事が載った。世界自然遺産の緩衝地帯にあった「落書き」として問題視された。
同じグラフィティでも「バンクシーでは?」と類似作品でも持ち上げられる一方、そのほかは落書きだとして一蹴される。
両者の線引きについて、メッセージ性や芸術性が挙げられることがある。だが、ネコの絵にメッセージ性がないとは断言できない。むしろ、米軍北部訓練場返還地の汚染問題などが払しょくされないまま世界遺産登録されたことに対する皮肉が込められているかもしれない。グラフィティに対する「ダブスタ」との指摘も理解できる。
アートイニシアチブオキナワ事務局長でアーツマネージャーの内間直子さん(47)は、イギリスで現代アートや写真を学んでいた00年頃、街中でバンクシー作品に出会ったという。
内間さんも沖縄の作品がバンクシーのものとの見方を否定する。同時に「バンクシー現象」について「第三者がやっていたにしても、ざわつかせてはいる。『バンクシーでは?』と思わせるだけで、バンクシーの思惑通りでは」と異なる視点を向けた。さらに「物事は白黒付けられないものもある。『グレーゾーン』を受け入れられる余白のある社会であってもいいと思う」とも付け加えた。
無許可で他人の物に絵を描けば、罪に問われる可能性も。バンクシーの作品であったとしても、そうでなくても一緒だ。一方、人々の受け止め方はバンクシーと捉えるか否かで正反対だ。県内で見つかったグラフィティの制作経緯は不明なまま。ただ見る人の心を揺さぶって、それぞれの価値観に問い掛けているのかもしれない。
(仲村良太)
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