<書評>『又吉栄喜小説コレクション全4巻』 沖縄こだわり、広がる想像


社会
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『又吉栄喜小説コレクション全4巻』又吉栄喜著 コールサック社・各2750円

 『豚の報い』で1996年に芥川賞を受賞した又吉栄喜氏が「又吉栄喜小説コレクション全4巻」を出版。文芸誌などに発表したが、書籍化していない未刊行小説44編を完全収録した。

 コレクション1『日も暮れよ鐘も鳴れ』のみが長編小説。フランスの詩人アポリネールの詩「ミラボー橋」を引用、パリを舞台にした恋愛小説である。

 沖縄を原風景にした小説が多い又吉氏であるが、珍しく海外のしかもパリという華やかな街を舞台にした長編。フランスの1年間の行事を背景に歴史や文化を織り込み物語は展開する。

 登場人物たちの複雑な生い立ち、不可解な心理状態を描いた小さな物語が無数に立ち上がる。それぞれが自分の体験や思いを「語り」続けるのが小説の特徴でもある。「語りの文学」とでも言うべきであろうか。解説を東洋英和女学院大学名誉教授の与那覇恵子氏が執筆。

 コレクション2『ターナーの耳』は中編8編を収録。ベトナム帰還兵ターナーと沖縄の少年との交流。沖縄戦で亡くなった人々の骨を拾う物語。基地の街に住む人々の苦悩や基地で働く人たちの物語。夢中劇のような実験小説。島を舞台にした神話的な世界などが描かれる。解説を作家で詩人の大城貞俊氏が執筆。又吉文学の全貌を紹介した、すぐれた論考となっている。

 コレクション3『歌う人』は中編8編を収録。生者と死者の物語。封鎖された島空間。パートナーを失った女性の物語。死者との結婚。魂を迎える行事などが語られる。解説を沖縄国際大学教授の村上陽子氏が執筆。

 コレクション4『松明綱引き』は短編・掌編27編を収録。解説を詩人の八重洋一郎氏が執筆。短編に文学的特徴が表れていると述べる。短編集を文学的星空に喩(たと)え、27編を星座を綴(つづ)るように5群に分類し紹介する。

 本コレクションから又吉氏の沖縄の地へのこだわり、螺旋状(らせんじょう)に広がる想像や飛躍を感じる。また、4巻のそれぞれの解説者が又吉文学の魅力を、味わい深く紹介しているのも、本コレクションの醍醐味(だいごみ)である。

(おおしろ建・俳人)


 またよし・えいき 1947年浦添市生まれ、作家。76年「カーニバル闘牛大会」で琉球新報短編小説賞、96年「豚の報い」で芥川賞受賞。著書に「巡査の首」「ジョージが射殺した猪」「亀岩奇談」など。