<書評>『ジーファーの記憶』 簪の歴史をひもとく


社会
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『ジーファーの記憶』今村治華著 南方新社・2860円

 ジーファーとは、琉装の女性が頭に結い上げた髪に挿す簪(かんざし)。多くは金属製で、クガニゼークと呼ばれる職人たちにより作られてきた。本書は、ジーファーの魅力に取りつかれた著者が、その歴史をひもとくノンフィクション。美しく輝くジーファーを手に、現代と過去を行き来するスリリングな冒険旅行だ。

 道程を照らすのは、先人が残した記録。明治の沖縄を訪れた米国人の著書や当時の絵はがき、戦前の新聞などから、ジーファーを愛用した女性たちの装いの変化や、戦時下も失われないおしゃれ心が明らかに。

 また旅の中では、往年の個性的なクガニゼークたちと出会う。戦前、琉装が減りジーファーの依頼が無いと見るや、金庫の修理をして名をはせた又吉誠睦氏。戦後大阪に渡り、音楽家・普久原朝喜/恒勇親子と交流、当地でジーファーを作り続けた又吉誠仁氏。糸満でアルミ製ジーファーを量産した新垣仁王氏など。それぞれの時代と場所で、やるべき事に取り組むクガニゼークたちの姿に、胸を打たれる。

 後半は、首里の「金細工またよし」7代目・又吉健次郎氏が登場、自らのライフストーリーを語る。那覇に生まれ、赤瓦の屋根の上で遊んだ幼少期。10・10空襲を危うく逃れ、戦後は英語力を生かし民政府で働きつつ、文学に没頭。そして作家・船越義彰氏の紹介でラジオ局に転職、脚本制作やリポーターを務める…など、波瀾万丈の後「またよし」のバトンを受け継いだ。ひょうひょうとした語りの中に、職人としての自負と伝統に向き合う姿勢がにじむ。

 最後に著者は、沖縄の女性にとってジーファーとは何か、という問いを立てる。答えを求め「おもろさうし」の世界に足を踏み入れ、そこで驚くべき発見をするのだが…それが何かは、ぜひ本書を読み確かめてほしい。

 1本のジーファーが人々の記憶を呼び覚まし、沖縄の女性たちやクガニゼークたちの飾らない素顔を、鮮やかに浮かび上がらせる。その様は、読者の心に静かな感動を呼ぶだろう。そしてこの長い旅を成し遂げた著者の熱意に、誰もが大きな拍手を送るに違いない。

 (金澤伸昭・まめ書房店主)


 いまむら・はるか 1973年東京都生まれ、フリーライター。旅行会社を退職後取材、執筆活動。著書に「島を旅する」「沖縄離島の島あそび島ごはん」など。現在は那覇市在住。