伝え合う力 宮城利佳子(琉球大学教育学部講師)<未来へいっぽにほ>


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宮城 利佳子(琉球大学教育学部講師)

 以前、ある幼稚園のお誕生日会を参観した。年長2クラス60人程度が遊戯室に集まり、司会の子どもたちが、その月にお誕生日を迎える子へインタビューをしていた。「好きな食べ物は何ですか?」「大きくなったら何になりたいですか?」「好きな遊びは何ですか?」といった質問だ。

 フロアにいる子どもたちは、他者の発表を真剣に聞く。小さい声の子、表現がなかなか伝わらない子もいるが、保育者は常に肯定的に、子どもの答えをフロア全体へ共有する。発表者の言葉をただ繰り返すだけではなく、フロアの子どもたちを巻きこみ、聞き手の子どもたちが発表者の補足をしたり、共通点や相違点があるか自身とつなげて捉えたりできるよう援助する。

 副園長先生が、「子どもたちは、すごいよ。何を言ってるのか分からなくても、理解しようとするし、応援して待てるんだから」とおっしゃっていた。

 小学校以降での学習の基盤となる「気持ちや考えを伝え合う力」は、幼児期から育まれている。幼児は園生活の中で伝えたい相手ができ、伝えたい気持ちや事柄をもち、伝える言葉を獲得していく。発表の型となる言葉や、発表者に対して形式的な反応を促す指導に比べて分かりにくいが、伝えたい言葉を伝える経験や、聞く経験を通して、子どもたちは伝え合う力を身につけている。

 「いいこと考えた! こんなやりたい」「これ、こんなしたい」。自由遊びの中でも、子どもたちは自分のやりたいさまざまなことを思いつく。子ども自身の思いを、子ども自身の言葉でたどたどしくても紡いでいく力、仲間を受け止めようとする力を育みながら、丁寧に言語化を援助する日々の保育が、園全体の前で発表する力へとつながっている。