安倍晋三元首相の訃報は沖縄でも衝撃をもって受け止められた。選挙の応援演説中の政治家を凶弾が襲うという今回の事態は、政治的な言論活動が活発な沖縄政界にとっても影響は大きく、与野党は一致して「許されない行為だ」と事件に憤りの声を上げた。辺野古新基地建設計画を巡って安倍政権と対峙(たいじ)した玉城デニー知事も「暴力による言論弾圧は絶対に許されない」と述べ、元首相の死去を悼んだ。
10日投開票の参院選が最終盤を迎える中で、現職の伊波洋一氏と新人の古謝玄太氏が大激戦を繰り広げる沖縄選挙区にも事件の影響が直撃した。
8日は菅義偉前首相が沖縄入りし、自民公認の古謝氏の集会に参加する予定だった。街頭演説中の安倍氏が銃撃されたという一報を受け、菅氏の来県も急きょ取りやめとなった。
■安全確保
安全を確保するため、沖縄選挙区に立候補している候補者の街頭演説は軒並み自粛とする対応がとられた。
オール沖縄が支援する伊波陣営は8日午後、那覇市の選挙事務所に幹部らを招集して対応を協議した。陣営は「暴力に屈することなく、民主主義の根幹である選挙はしないといけない」と方針を確認した。9日の選挙戦最終日は予定通り運動を実施するとした。
古謝氏を支援する自民党県連は一般質問の終了後、県議会で緊急の総会を開催した。9日の打ち上げ式などは規模を縮小して開催することを確認した。古謝陣営関係者は「活動を止めざるを得なく、選挙活動には影響がある」と語った。
松野博一官房長官は8日午後1時前、首相官邸で記者団の取材に応じた。「蛮行は許されるものではなく、断固非難する」と犯人を厳しく指弾する一方、全閣僚を緊急招集したとも明かした。
西銘恒三郎沖縄担当相は8日午後4時ごろ、招集を受けて県内の遊説先から那覇空港をたった。同6時半過ぎには羽田空港に到着したが、空港から出ることはなく、松野官房長官とのやり取りを済ませると同8時過ぎに沖縄にとんぼ返りする慌ただしさだった。
■辺野古強硬に
戦後最長政権となった首相在任時には、米軍普天間飛行場の辺野古移設を強硬に進めた安倍氏。辺野古新基地建設に反対する対抗勢力として「オール沖縄」の結集につながるなど、県内政局に深い対立構造をもたらすことにもなった。
沖縄政策で安倍氏の路線を継ぐ岸田政権への事件の影響について、内閣府幹部は「安倍元首相が退任後も沖縄政策に関わったことはなく、大きな変化はないだろう」との見方を示した。
ただ、安倍氏は、自民党最大派閥の「清和研」を率いるなど党内で大きな影響力を持っていた。「実力者が亡くなったことで、派閥の争い激化など党内の力学が変化することはあり得る」とし、沖縄政策への影響の可能性も示唆した。
(安里洋輔、梅田正覚)