【特別評論】非暴力の対話こそ民主主義の前提 安倍元首相銃撃・死亡 琉球新報社編集局長・島洋子


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
安倍晋三首相(左)と会談し、米軍普天間飛行場の辺野古移設断念を訴える翁長雄志知事=2015年4月17日、首相官邸

 自民党の安倍晋三元首相が参院選の応援演説中に銃で撃たれ死亡した。選挙最終盤に街頭に立つ元首相を背後から銃撃し、尊い人命を奪った。その動機がいかなるものであっても、国民を不安に陥れる卑劣な犯行というだけでなく、言論の自由を封殺するものだ。基本的人権と民主主義に対する重大な攻撃であり、断じて許されない。

 参院選の投開票日の2日前という日に起きた凶悪な事件に、衝撃を禁じ得ない。選挙は言論の自由に支えられており、民主主義が成り立つ基盤だ。テロや暴力でもって言論を封じる凶行は絶対に認められない。この考えは、琉球新報の編集における基本姿勢である。この姿勢を基に、本日付の琉球新報は各面で事件やその反応を詳報する特別編成とした。事件を深刻に受け止め、今後の影響を強く懸念したからである。

 安倍元首相と沖縄の間で最も大きな政治課題は米軍普天間飛行場の移設問題であった。安倍氏は2012年末に首相に返り咲いた後、名護市辺野古への新基地建設を進めると表明した。仲井真弘多知事に埋め立てを承認させ、翁長雄志知事が新基地建設反対を訴えてもその意見を聞くことはなかった。19年の県民投票で辺野古埋め立て反対が投票者の7割と多数を占めたにもかかわらず、姿勢は変わらなかった。国策と地方自治の対立が続く中、琉球新報は県紙として、特に米軍基地問題を巡り沖縄の民意をくみ取らない政治姿勢を批判してきた。

 ただし立場の異なる言論を尊重し、さまざまな意見を出し合い、討議を重ねることでよりよい方向性を見い出し、社会の発展を目指すのが民主主義のあるべき姿である。非暴力による対話こそが、民主主義の前提であり要諦である。関係当局は二度とこのような事件が起こらないよう再発防止に万全を尽くすべきだ。安倍氏には弔意を表したい。

 戦前、五・一五事件や二・二六事件などテロやクーデター未遂が起き暴力が政治的に有効だという空気が社会に生まれた。結果として治安維持という名の下に軍部が権力を掌握し、言論や表現の自由が制限され、戦争につながっていった。その反省は今も生きている。

 明日10日は参院選の投開票日である。事件を機に政治家がテロや暴力に萎縮することなく、自らの意見を堂々と主張し、選挙戦を戦ってほしい。琉球新報は選挙における論戦や投開票の結果をこれまで通り詳しく報じていく。それが民主主義を守る方策だからだ。