自然環境の保全と観光、どう両立?考えるべき課題は 沖縄・奄美世界自然遺産登録から1年


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豊かな緑に包まれたやんばるの森=25日、国頭村内(ジャン松元撮影)

 沖縄・奄美の世界自然遺産登録から26日で1年。希少な固有種が多く生息する生物多様性を維持するために国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会からは環境に負荷をかけない観光管理や希少固有種のロードキル(交通事故死)対策などへの対応を要請されている。国や県、地元町村と住民は地域連絡会議を設けて、保全と活用をどう両立させていくのか議論を進めている。

 入域制限

 八重山諸島屈指の観光地・西表島。遺産委は西表島に特記する形で入域観光客の制限を要請している。

 19日に開かれた地域連絡会議の西表島部会では、観光客数を1日当たり1200人以下に制限する「西表島観光管理計画(案)」が示された。

 案には、エコツーリズム推進法に基づき竹富町が国と連携し進めている「西表島エコツーリズム推進全体構想」の考え方も反映され、遺産地域内の区域ごとの入域制限の設定も目指している。町の担当者は「個別の取り組みを積み重ねていくことが大事」と長期的な計画の必要性を強調する。

 遺産委は、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコに代表される希少な固有種を具体的に挙げ、交通事故死減少策の強化に国や県、地元町村で連携し取り組むよう求めた。

 運転手の意識

 ヤンバルクイナの事故死は、遺産登録地を東西に横断し住民の生活道路でもある県道2号や、東側の県道70号で多く発生している。県や国などは動物用通路「アンダーパス」や侵入防止・抑制柵の設置などを進め、事故死減少に努めてきた。

 一方、環境省やんばる自然保護官事務所の吉川紀愛自然保護官は根本的な対策として「ドライバーがいかに注意するかだ」と指摘する。「周囲をよく見て、制限速度の30~40キロ内で運転すれば事故死は減らせる」と呼び掛ける。

 県自然保護課の古波蔵みな子生物多様性推進監は、遺産委の要請事項への対応に共通する課題として住民生活との共存を挙げる。「遺産のすぐ近くで住民が生活し、多くの希少な固有種と長年共存してきた」からだ。観光客増加は「自然だけではなく生活環境も損なう懸念もある」と指摘する。

 保全と活用の両立の鍵は何か。古波蔵推進監は「自然、生活環境に配慮した観光のルールをいかに守ってもらうかが大事だ」と強調した。
 (岩切美穂、西銘研志郎、安里周悟)