<書評>『ボリビア開拓記外伝 コロニアオキナワ 疾病・災害・差別を生き抜いた人々』 不可能を可能にした男


社会
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『ボリビア開拓記外伝 コロニアオキナワ 疾病・災害・差別を生き抜いた人々』渡邉英樹著 琉球新報社・2090円

 本書は、日本の反対側ボリビアで「不可能を可能にした男」の物語である。

 ボリビアのコロニア・オキナワは、移住地成功例として高い評価を受けている。1戸当たりの栽培面積は300~500ヘクタールで沖縄平均の100倍をはるかに超える。それまで度重なる水害や干ばつの影響で、移住地の存続さえ危ぶまれた状況下で、成功の糸口となったのはCAICO「コロニア・オキナワ農牧総合協同組合」の設立であろう。

 CAICOが始めた綿花事業は一時、成功を収めたが、その後の天候不良や綿花価格の暴落で、膨大な借金を残した。しかしここで経験した機械化大規模農業体制が、その後、大豆、小麦などの栽培につながり、一時は失敗の張本人として悪評高かった創立時「経営顧問」の筆者は、一挙に恩人として高く評価され、「ボリビア沖縄県人会名誉会員」の称号を授与された。

 CAICOの設立時、筆者の働きは、特筆すべきものであった。自己資産ゼロの状況で、全く面識のない日系人資産家、トヨタ・ボリビアーノ社・ホセ河合社長の懐に飛び込み「無利子、無担保、無保証」の条件で資金を引き出した例などは、ビジネス社会では、全く考えられえない。筆者の並外れた熱意、責任感が、河合社長の心を動かしたのであろう。また、綿花プラント設備を持ち込む際、国境で滞貨していた鉄道車両を、旧知の秘密警察官の絶大な権力(殺しのライセンス)を利用し、強引に持ち込むなど、不可能を可能にした例であろう。

 輸送の途中、連結器から外れた貨車が逆走した際、飛び降りて強度のムチ打ち症を負い1カ月の入院を余儀なくされたが、その体で全ての任務を全うするなどまさに超人的な活躍である。半面、筆者は成功の陰で9割もの仲間が中途挫折して去っていった事実に思いをはせ、戦前の移民が、戦後、敵国民として迫害され、日系人であることを隠し現地人化した多くの人々の存在を指摘するなど、恵まれない人々に目を向けている。ここに筆者が強いだけでなく、やさしい心の持ち主であることが見て取れる。

 (稲嶺恵一・沖縄ボリビア協会顧問)


 わたなべ・ひでき 1941年長野県生まれ。国際協力機構(JICA)、日ボ合弁企業社長等を経てビル管理会社設立。日本ボリビア協会相談役、ボリビア沖縄県人会名誉会員。

 

渡邉英樹 著
A5判 287頁

\2,090(税込)