<書評>『大城立裕追悼論集 沖縄を求めて 沖縄を生きる』 未来の沖縄 考える手掛かり


社会
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『大城立裕追悼論集 沖縄を求めて 沖縄を生きる』刊行・編集委員会 インパクト出版会・2750円

 本書は2020年に95歳で惜しまれつつも逝去された大城立裕の文学作品を、又吉栄喜をはじめとした沖縄内外の文学者・研究者が論じた貴重な一冊である。

 大城貞俊による「発刊にあたって」に以下のようにある。〈大城立裕が残したもの、愛したものがなんであったのか。この遺産を検証し共有することが大城立裕の足跡や提示した課題に答えることになるのではないか〉。本書はこのような思いから、企画されている。

 本書は3部構成となっており、第I部は昨年行われた追悼記念シンポジウムの内容を収録し、第II部はエッセイ、第III部は作家論・作品論と充実している内容である。執筆者には、韓国、中国、米国等の研究者もおり、大城文学の影響力の大きさを思わせる。

 紙幅の関係でそれらすべてに触れることはできないが、たとえばII部のエッセイを読むと、大城立裕という作家がまざまざと浮かび上がってくる。これは後の世代が読んでも大変魅力的かつ貴重なものであろう。作品を知ること自体は、作品を読むことで、ある程度可能であるが、作家を知ることは難しい。ここには、同時代に生きた人々の貴重な証言がある。もちろん、これはII部に限らない。例えば、I部の山里勝己の話に、大城が指を折らなくとも琉歌を詠めたというエピソードが出てくる。短歌を詠む歌人である私には、この話がことのほか興味深かった。歌人の中でも歌を詠む際、指を折って数える者とそうでない者がいる。大城は琉球語のネーティブスピーカーであった。だからこそ、20篇もの新作組踊を書けたのではないかと山里は指摘する。小さな、けれどもこうしたエピソードの数々が、作者・作品像をより強固なものとしてくれる。誰もが知っている大城立裕であるが、彼を知らなかったのだと気づくだろう。

 大城立裕の作品を知ることが、沖縄の過去・現在を知る手掛かりになる、未来の沖縄、沖縄文学を考える手掛かりになる。本書を読みながら、そう思った。

(佐藤モニカ・歌人・小説家)


 刊行・編集委員会 又吉栄喜(作家)、山里勝己(名桜大学大学院教授)、大城貞俊(詩人・作家)、崎浜慎(作家)の各氏が担った。刊行にあたり、多くの執筆者やシンポジウム出演者が協力した。