『沖縄県史 各論編 第1巻 自然環境』 自然が生む文化の多様性


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『沖縄県史 各論編 第1巻 自然環境』沖縄県教育庁文化財課史料編集班編 沖縄県教育委員会・10000円+税

 刊行が続く沖縄県史に「自然環境」と題する各論編の1巻が加わった。この巻の特色は、巻頭言で断言するとおり、人と自然の関わりにこだわって編まれた点であろう。自然編ではなく自然環境編とした意図は、第1章総論から容易に読み取れる。

 島じまの地形・地質や気象、そして海、川、山の生きものたちの多様性を概観した後、各地の暮らしぶりにみる濃厚かつ多様な人と自然の関わりにより享受してきたさまざまな生態系サービスについて豊富な事例を採録して跡付けている。かつて普遍的だった絶やすことなく、すなわち賢く自然を利用する知恵や技術といった地域に固有の無形遺産が、自然環境の保全と利用が社会的命題となった今、再び活(い)かせるのではないかと説く。
 第2章気象・海象以降、地誌、海域の生物、陸水域の生物、陸域の植物、最後に陸域の動物と続く各章においても、領域や生態系ごとにそれぞれの地域について事象や生きものをモノグラフ風に記載した後、第1章同様、人と自然の関わりに関する事象を多く採録している。具体性に富んだこれらの章により、地域の自然事象や生物多様性との相互作用によりその地の多様な文化が形成され、地域ごとの固有文化が県全域でみる文化の多様性をもたらしていることへの理解を助けてくれる。
 さて、沖縄の自然は特異で生物多様性に富む一方、脆弱(ぜいじゃく)な島嶼(とうしょ)生態系のもとで、絶滅が危惧される動植物種の多いことも広く知られる。既に生物多様性おきなわ戦略が策定され、生物多様性を保全し、さまざまな生態系サービスの恩恵をこれからも受けるため、多様な主体の参画を得た取り組みが急がれている。
 こうした時宜にあって、かつて享受してきた生態系サービスを、個別具体的な事例をとおして地域の福祉や文化と関連付けて理解する意義は大きく、この県史が環境学習の教材として広く活用される仕組みづくりを急ぎたい。
 (花井正光・NPO法人沖縄エコツーリズム推進協議会会員)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 おきなわけんしへんしゅうじぎょう 沖縄県は1963年~77年にかけて、明治初期から沖縄戦までの近代史を「沖縄懸史」全24巻にまとめた。94年から新たに新県史編集事業が始まり、先史時代から現代に至る沖縄の自然、歴史、文化を記述。今回の各論編は考古、近世、古琉球、近代に次いで5冊目。