<書評>『新中国論 台湾・香港と習近平体制』 沖縄にも視点 不安を整理


社会
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『新中国論 台湾・香港と習近平体制』野嶋剛著 平凡社・1056円

 ある問題について、どう考えればいいのか疑問がわくことがある。ロシアがウクライナに侵攻したように、中国が台湾に同様のことをしないだろうか。5月の日米首脳会談でバイデン大統領が台湾の軍事関与に踏み込む発言をしたが、その場合、米軍基地の多くを置かれ、しかも台湾に近い沖縄の基地を使うのか。本著が格好の背景説明をしており、ペロシ下院議長の台湾訪問でも緊張が高まり、一層タイムリーな出版となった。

 香港、台湾と中国の関係についてここ3年の動きを解説するのがこの本の主旨だが、長く東アジアを取材してきた著者はロシアのウクライナ侵攻はヨーロッパの出来事にとどまらず、台湾、そして沖縄にも関連してくるという視点を盛り込んでいる。

 例えば、第7章。著者は「いくつかの相似点」を挙げる。ロシアにとってウクライナは歴史的に一体性があり、同じ国という意識が強い。中国は台湾を同胞としており、攻撃した場合にどう正当化するか中ロのロジックが似ていると指摘する。また、ウクライナはNATOの集団安全保障に加わっていない。台湾も似た境遇にあり、米国は武器供与は定めていても有事に軍事介入するか曖昧にしてきた。
 「台湾有事は日本有事、日米同盟の有事となる」。去年12月、安倍晋三元首相が台湾とのオンライン会議でこう述べ、中国は「内政干渉だ」と抗議し、台湾との関連を思い起こさせた。

 本著は「台湾有事は日本有事」というのは「抽象論」だとした上で、以下の見方を述べている。

 台湾の本島から遠く離れた離島を中国が攻撃した場合、確かに台湾有事だが、日本有事にも日米同盟の有事にもならない。だが、台湾本島に攻撃があり、在留米人や邦人の生命財産が脅かされる場合は米軍が軍事作戦を発動する可能性が高い。その場合、沖縄の米軍基地が前線拠点になり、中国は沖縄の米軍基地への攻撃も検討するだろう。中国の攻撃が現実的かどうかはともかく、こうして順を追って整理することで不安を解消させてくれる本なのだ。

(青柳光郎・ジャーナリスト)


 のじま・つよし 1968年生まれ、大東文化大教授。朝日新聞シンガポール支局長、台北支局長などを経て2016年退社。主な著書に「香港とは何か」「蒋介石を救った帝国軍人」など。